バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(vancomycin-resistant Staphylococcus aureus:VRSA)感染症とは,バンコマイシン耐性を示す黄色ブドウ球菌による感染症である。VRSA感染症は感染症法によって5類感染症(全数把握)に指定されている。
米国CLSI基準では高度耐性〔最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)値16mg/L以上〕のVRSAと低度耐性(MIC値4~8mg/L)のvancomycin intermediate-resistant Staphylococcus aureus(VISA)にわけられる。VRSAはバンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin resistant enterococci:VRE)由来のバンコマイシン耐性遺伝子を獲得することによる耐性化であり,VISAは細胞壁の合成や代謝に関連する複数の遺伝子変異による複合的な耐性化と考えられている。
VRSAおよびVISAが原因となる感染症は,一般的な黄色ブドウ球菌による感染症と同様である。皮膚の切創や刺創などに伴う化膿,毛囊炎などの皮膚組織の炎症から,肺炎,腹膜炎,敗血症,髄膜炎などに至るまで様々な感染症の原因菌となる。
VRSAは世界的には稀で,日本での発生報告はない。したがって,臨床分離株でVRSA疑いの株が検出された場合には,まずは菌株の再分離・同定と薬剤感受性試験の再検が必要である。薬剤感受性試験(MIC値測定)でバンコマイシン32mg/L以上を示す黄色ブドウ球菌を検出する(VRSA)。またMIC値8あるいは16µg/mLの株はVISAである。現在,各医療施設の検査室等で日常的に実施されている薬剤感受性試験で十分検出が可能であり,特別な検査法や培地は必要ない。
細菌は一般的にMIC値の1/2程度の濃度の抗菌薬にさらされると,徐々に薬剤に対する感受性が低下し,MIC値が2~3管上昇する現象(適応現象)が起こることがしばしば経験される。したがって,MRSA株の薬剤感受性検査を行う場合は,バンコマイシンの入った培地で菌株を継代するのではなく,NCCLS(米国臨床検査標準委員会)の定める方法に従い,可能な限り臨床分離された時点に近い「元株」を用いて検査する必要がある。
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