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大雨で注意、自動車での溺水[先生、ご存知ですか(44)]

No.5079 (2021年08月28日発行) P.66

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2021-08-25

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大雨の冠水で

8月は記録的な大雨が続き、多くの死傷者が出ました。テレビの映像で自動車が流されている様子を目にしましたが、大雨で自動車が水没して乗員が溺水するということが散見されます。

もちろん、自然災害に限らず、運転ミスによる不慮の事故、意図的に水中へ侵入する自殺、そして運転者の急な体調変化で誤って正常な操作ができず、河川などに侵入する例などもあります。

しかし、わが国では「自動車が水没して何人の人が死亡したか」という数字を正確に把握することは困難です。海外の報告では、米国、オーストラリア、カナダ、スウェーデンなどの先進国における溺死例の約1割弱は、自動車事故によるそうです。

一方、これらの国における自動車死亡事故のうち、0.7~4.7%は自動車の水没によるとのことです。特に米国では、自動車の水没によって死亡する人が年間約400人にも達します。したがって、わが国でも決して稀なことではないと予想されます。

死に至りやすい条件

米国では一般の溺水事故において、どのような条件があると死に至りやすいかについての研究が行われました。その結果、溺れた人が何らかの循環器疾患に罹患していた場合には、そうでない人に比べて約13倍死亡しやすいことが分かりました。そして、自動車事故による水没の場合には、そうでない場合に比べて約5倍死亡しやすいことも明らかになりました。

したがって、米国などでは、自動車が水没した際に脱出する方法について、広く国民に啓発しています。万一、自動車が水没しても、冷静に行動すれば死を逃れることができるのです。

死を避けるための対策

自動車の周囲の水深が30cmを超えると電気系統の不具合が生じる可能性が高くなり、エンジンが停止し、パワーウィンドウが作動しなくなります。自動車が水中に進入した際には、短時間は自動車が浮いています。したがって、米国などでは、最初の30秒の行動が生死を決定するとも言われています。

まずはシートベルトを外して、ドアが開くかを確認します。しかし、周囲の水位がドアの半分の高さにまで達した場合、水圧によってドアを開けるためには通常の5倍程度の力を要するそうです。したがって、ドアを開けられないこともあります。

密室になった状態で脱出するには、窓を破壊しなくてはなりません。最も割れやすい箇所は、左右のドアの窓です。それでも、普段身につけているスマートフォン、車の鍵、あるいは手拳などで破壊することは困難です。窓を破壊するためには緊急脱出ハンマーが有用です。わが国でも複数の製品が発売されていますので、このような緊急脱出専用ツールを常備することが必要です。


いつゲリラ豪雨が襲ってくるか、いつ運転者が河川の近くで運転操作を誤るか、いつ走行中に急病に襲われるか分からない状況では、常に自動車が水没する危険があります。したがって、溺水で命を落とさないためにも、緊急時の対処法と脱出専用ツールの常備をお勧めします。

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