脾腫とは脾臓が腫大した状態を指し,その原因としては肝疾患,血液疾患,感染症などの関与を考慮する。脾腫自体に対して治療が必要になることは少なく,脾破裂に対して,脾腫による脾機能亢進に対しての治療が必要となる。
脾臓は幼児期が最も大きく,加齢とともに縮小していく。一般には脾臓の長径×短径(spleen index)が40cm2の際に脾腫と診断する。脾腫をきたす機序として,うっ血,脾臓構成細胞以外の細胞の浸潤,炎症やそれに伴う過形成,脾臓構成細胞の悪性化などがある。原因として,門脈圧亢進症(肝硬変が80%と最多),血液疾患,代謝性疾患,感染症,膠原病,脾腫瘍などがあり,病歴や症状,画像所見が重要となる。
脾腫自体が治療対象となることは少なく,その原因疾患への対処が重要である。発熱などを伴う急性の脾腫は感染症や血液疾患などが原因のことが多い。Epstein-BarrウイルスやA型肝炎ウイルスなどのウイルス感染,マラリア,腸チフス,結核,細菌性心内膜炎,敗血症などの感染症,血球貪食症候群や急性白血病などが原因となるが,原疾患に対する加療,炎症の改善により自然軽快することが多い。慢性の経過の場合は,ほとんどは門脈圧亢進症によるものであるが,慢性白血病などの血液疾患,ウィルソン病やゴーシェ病などの代謝疾患,サルコイドーシスやアミロイドーシスなどが原因となりうるため,やはり原因疾患の特定とそれに対する加療が重要となる。
脾腫が高度の際や急速な経過の際には破裂をきたすことがあり,患者に対しては運動や腹部外傷に注意を払うよう指導する。脾腫の患者で急激な腹痛を認めた場合,脾破裂を疑う。脾破裂では腹腔内出血によるショックに陥るため,輸液,輸血,昇圧薬などによる循環管理と並行し,部分的脾動脈塞栓術(PSE)や脾臓摘出術を施行する。PSEに関しては適切な範囲で塞栓を行うことが重要であり,脾臓の70%前後を目安に塞栓を行うが,全身状態不良や巨脾例においては分割的にPSEを行うことも考慮する1)。脾臓摘出術に関しては開腹と腹腔鏡下のアプローチがあるが,腹腔鏡下アプローチは,手術侵襲の低さなどから開腹よりも有用とする報告が多い2)。
脾腫の際の脾機能亢進症では血球減少がみられ,白血球減少,貧血,血小板減少が問題となる。C型肝硬変患者に対してインターフェロン療法を行う際に血小板減少が問題となるため,以前は脾摘やPSEを行うこともあったが,近年は直接作用型抗ウイルス薬が用いられるようになり不要となった。さらに血小板減少を伴う肝硬変患者において観血的処置の際には,トロンボポエチン作動薬を用いることで,比較的安全で効率的に,一時的に血小板を増加させることが可能となっている。
また,特発性血小板減少性紫斑病(ITP)でも薬物治療無効例には脾摘を行うことがあり,ITPや骨髄線維症で脾腫(脾機能亢進)の軽減目的に脾臓への放射線照射が行われることもある。脾摘やPSE後には脾静脈・門脈血栓に注意を要する。
また,脾摘後は莢膜を有する細菌(肺炎球菌,髄膜炎菌,インフルエンザ菌など)による感染症リスクが上昇する。脾摘後の重症感染症(OPSI)は劇症の経過をたどり,死亡率が非常に高く,そのほとんどが肺炎球菌による。このため,ワクチン接種が推奨される。
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