米国にはワクチンの安全性をモニタリングする仕組みがあり、接種後の有害事象がワクチンの副反応なのかどうか、因果関係を評価している。その仕組みと日本の課題について、CDC(米国疾病予防管理センター)でワクチンの安全性評価に携わる紙谷聡氏に聞いた。
米国では、「ワクチン有害事象報告システム(VAERS)」、「ワクチンの安全性データリンク(VSD)」、個々の有害事象に対する専門家の相談、研究を行う「臨床予防接種安全性評価(CISA)プロジェクト」という3つの組織が機能し、ワクチンの安全性を監視しています。
VAERSは、ワクチン接種後の有害事象・副反応疑いの自発的報告を受けるシステムです。日本の副反応疑い報告制度と同じような仕組みですが、米国では、医療関係者だけではなく、誰でもウェブサイトを通じて有害事象の報告ができます。
VAERSの利点は、ワクチンの有害事象情報が迅速に集められることです。ただ、因果関係が証明されていない有害事象がメディアなどで取り上げられると、同じような報告が急増するレポートバイアスが生じる弱点もあります。また、VAERSのデータだけでは、有害事象とワクチンとの因果関係が評価できないのが最大の欠点です。この欠点を克服するために1990年にVSDが設立されました。
VSDはCDCと9つの民間病院群との共同プロジェクトです。1200万人の米国民の診療情報やワクチンの接種歴などの医療データを匿名化した形で能動的に収集し、巨大なデータベースを構築しています。新しいワクチンが導入されて、副反応疑いの病気が増えたときに、非接種群と接種群のデータを比較することで、ワクチンとその病気との因果関係を評価し、予防接種諮問委員会(ACIP)へ報告しています。ワクチンとの因果関係を検討するためには、非接種群のデータが不可欠なのです。