COVID-19の予防,治療,および薬剤治験などは病期分類を基準にして実施すべきである
COVID-19患者の診療においては,病期分類→背景因子→重症度分類の順にスピード感を持って対応する
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がもたらす一連の免疫介在性疾患に対して個々の疾患に応じて重症度分類を活用する
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は長い間,舞台下に潜伏していたオミクロン株が表舞台に登場し,当分の間終息しそうもない。デルタ株より感染性は強いが,唯一の救いとしては,それよりも病原性が弱い。
COVID-19の治療基準について,今までの呼吸器能別症候群の重症度分類ではなく,ウイルスを中心とした病期分類を選択していれば,もっと多くの患者を救えたし,ここまでCOVID-19の流行が長引くことはなかったと考える。
筆者が昨年の新聞で一番印象深かった記事は,日本経済新聞に掲載された「多数決は誰の意思か」という記事である(2021年7月11日)。まさにCOVID-19の一般知識においても同様の意思決定で形成されたのではないかと危惧する。
社会に影響を及ぼす力を持った人に誤った先入観がインプットされると,その影響力が社会全体に及び,市民はそれに対して何ら疑問を抱くことなく,正しいことと思い込み洗脳されてしまう。やがて時が経つうちに全体の総意になっていく。一度,それが社会に定着すると,既得権が生まれ,この流れを正しい方向に戻すためには並外れたエネルギーが必要となる。このような状況は歴史上,何度も繰り返され,時に悲劇を生んできた。最近の世界的なポピュリズムの台頭や,ロシアの大義・正義なきウクライナ侵略にも通じる。したがって,このような既成概念を打破するためには「コペルニクス的転回」を実践することが必要となる。COVID-19の流行を終焉させるためにはまさしくこの勇気ある行動を実行すべきである。
わが国ではCOVID-19患者数は欧米諸国に比べて少ない。これは島国で検疫体制により,批判はあるものの感染の拡大を抑えていることの表れでもあるが,豪雨の時に堤防の一部が決壊するのと同じようにこの水際作戦にも限界がある。
このCOVID-19の小康状態の時期に治療方針の基準を思い切って重症度分類から病期分類に移行することは,支流の流れを本流に戻す絶好のチャンスである1)~10)。
今回は,今までの第1~6章で述べてきたことを参考にして,COVID-19の治療基準について考えてみたい。最初に結論を述べるが,COVID-19の診療にあたっては病期分類を基盤に患者背景リスク因子と重症度分類を加味する2)~10)。
病期分類は患者のウイルス(量)とその生体防御機能の相関関係によって生じる「移りゆく病態」を経時的に表したきわめて重要な分類である(図1)。したがって,まずCOVID-19診療方針の大前提として病期分類が基準となる。この病期分類に沿って,COVID-19の予防,治療,および薬剤治験を実施する2)~10)。
次にCOVID-19患者の背景リスク因子を加味して,さらにウイルスによる間接障害,すなわちウイルスを迎え撃つ生体防御機能の程度よって引き起こされる一連の免疫介在性疾患について個々に重症度分類を作成して,その程度に応じて治療すれば根治的治療となる。一見複雑にみえるが,3段階方式のきわめてシンプルな診断法であり,おのずと根治的治療に結びつく。
病期分類→患者背景リスク因子→重症度分類と重症化リスクの診断を速やかに実施する治療方針に対して,今までの呼吸器能別症候群の重症度分類に基づく治療方針では「木を見て森を見ず」「群盲象を評す」などの諺があるように,いかに狭い範囲で考えて,COVID-19の対策がなされてきたかということに気づく。これでは治療においては「治る病も治らず」,薬物治療や治験においては「効く薬も効かず,効かない薬が効く」という結論に至っても決して魔訶不可思議ではない。
病期分類を基盤に患者の背景リスク因子,SARS-CoV-2がもたらす一連の免疫介在性疾患の重症度分類を患者のトリアージと治療に活用するということは,すなわち,COVID-19患者の初診時に①病期分類→②患者背景リスク因子→③重症度分類の順に速やかに診察,治療するということである。以下に具体的に述べる。
患者が病期分類のどの時期にいるのか把握して,適時,適材の治療薬の投与,および処置を実施する。
なお,病期分類第3期・第4期として診断された患者において,この時期を迎えると患者のウイルス量が減少,消失してウイルス検査陰性となるときもある11)。
③④⑤については,その病院の初診時に既にほかの施設でCOVID-19の治療を受けていたかを示す。
次にSARS-CoV-2がもたらす一連の免疫介在性疾患の重症度分類による重症化リスクを取り入れてスコア化して治療に活用する。
ウイルス検査陽性,SpO2(血中酸素飽和度)低下,胸部CT所見ですりガラス状所見ありのトリアスがそろえば,SARS-CoV-2間質性肺炎の確定診断となる。
速やかに病期分類第3期・第4期の後期の治療,処置を実施する。
ありの場合は速やかに抗凝固療法(ヘパリン,ナファモスタット)を実施する。
血管内皮細胞の表面にはSARS-CoV-2の標的受容体があるので血管が拡張し,低血圧をきたす症例があり,このような場合は日常服用している降圧薬を一時中断する。COVID-19が回復し,血圧が上昇してくれば再開する。
生体(免疫)防御機能が低下し,免疫応答が弱くなるとヘルペスウイルス科ウイルスなどの日和見ウイルスなどが回帰感染として顕性化する。そのほか,アデノウイルス,肝炎ウイルス,HIV,インフルエンザウイルスの合併などの重複感染も想定される。
適切な抗菌薬,抗真菌薬を併用する。
グローバリゼーションによりマラリア,アメーバ,リケッチアなどの感染症が想定される。
◇
以上,100点満点のスコア化をし,初診時,患者の病状の進行度の把握,治療,トリアージ,および入院適応の有無などに応用する。
合計点が高いほど,早期の積極的な治療や入院が望まれる。ウイルスの増殖に負けないためにも何よりもスピード感が要求される。
このプロトコルを一定期間使用した後,上記のスコア化条件を検証し,各項目についてはCOVID-19を多く経験している医療従事者や過去のデータからSARS-CoV-2が引き起こす一連の疾患や因子を抽出して加える。簡略化と柔軟性を持たせ適時変更する。
ウイルス感染症には,細菌感染症と異なり,感冒症状を主訴とする直接障害とウイルスが宿主の免疫を惹起させて生じる間接障害があることを学んできた。COVID-19においてもこの一連の流れに沿った病期分類に応じて,予防,治療や薬剤治験を実施すべきである。さらに最後に繰り返し強調するが,今までのCOVID-19の政策の反省と教訓から実りある「シンプルな能動的解決策」に切り替えるべきである3)。
【文献】
1)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き. 第7.0版, 2022年3月3日.
2)高橋公太:医事新報. 2021;5064:26-32.
3)高橋公太:web医事新報. 2021.
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=17678
4)高橋公太:医事新報. 2021;5077:29-37.
5)高橋公太:医事新報. 2021;5083:38-46.
6)高橋公太:医事新報. 2021;5092:27-33.
7)高橋公太:日臨腎移植会誌. 2021;9(1):44-56.
8)高橋公太:腎と透析. 2020;89(4):735-43.
9)高橋公太:腎と透析. 2021;90(2):289-301.
10)高橋公太:新型コロナによる肺炎は移植患者の感染症に酷似─コロナ重症患者の治療法へ移植医からの提言. 論座 朝日新聞, 2021月2月23日
11)To KK, et al:Lancet Infect Dis. 2020;20(5):565-74.