今から数十年前、私が今とは別の病院に勤務していた時のこと。学生の頃から大変お世話になり、その病院への就職にも一肌脱いでくださった恩師が、「胃が痛い」との訴えのもと、その病院の消化器内科を受診された。外来を担当したのは私の上級医だったが、以前のカルテに十二指腸潰瘍の既往が記載されていたこともあり、「それでは胃カメラをやりましょう」と言って、すぐに上部の内視鏡検査を行った。私も気になって検査を見に行ったが、胃も十二指腸もきれいで、潰瘍は既に瘢痕となっている。それを聞いたご本人は首をかしげておられたが、上級医は「胃や十二指腸には異常はないようですが、念のためCTを撮っておきましょう」と話し、上腹部造影CT検査を施行した。
ここに掲げた写真がその時の画像である。膵体部から尾部に造影効果のない腫瘍性病変が存在し、膵体尾部癌である。私は確認できなかったが、内視鏡時にどうも胃外からの圧迫像があったようで、このところ体重が減っているという訴えと合わせて、経験豊かな上級医はピンときたのだろう。遠隔転移はなかったものの局所浸潤が強く、化学放射線療法の後conversion surgeryも検討される現在とは異なり、当時は手術適応がないと判断された膵癌に対する有効な治療法はなく、数カ月の後不幸な転帰を取られた。
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