厚生労働省は7月22日、新型コロナウイルスの新規感染者が急増している状況などを踏まえ、新型コロナワクチンについて①4回目接種の対象者に「18歳以上60歳未満の医療従事者等および高齢者施設等の従事者」を追加する、②ノババックス製ワクチンを初回接種(1・2回目接種)に使用する場合の接種対象年齢を「18歳以上」から「12歳以上」に引き下げる、③インフルエンザワクチンとの同時接種を認める─などの方針を決めた。方針決定の根拠と諸外国の状況を整理する。
これらの方針は、22日に開かれた厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会(分科会長:脇田隆字国立感染症研究所長)で了承された。
4回目接種については、感染予防効果が限定的であることなどを踏まえ、4月の分科会で「60歳以上の者」と「18歳以上で基礎疾患を有する者その他重症化リスクが高いと認める者」を対象とすることが決められた。しかし7月に入り新規感染者が急速に増加、医療機関や高齢者施設で従事者を通じた集団感染発生などの懸念が高まっていることから、対象者に医療従事者などを加えることとなった。
22日の分科会で厚労省は「WHOから医療・介護従事者へのmRNAワクチンによる4回目接種は短期的な利点があるとの見解が示されている」としつつも、「4回目接種の感染予防効果は限定的というエビデンスに特段変わりはない」と説明。
諸外国の状況についても、「ドイツ・イスラエルでは医療・介護従事者を4回目接種の対象者に含めている」としながら、対象者を重症化リスクの高い者などに限定している国が多いとした(表参照)。4回目接種の医療従事者などへの拡大は、感染者急増を踏まえ踏み込んだ判断をしたものと言える。
厚労省は22日付で、医療従事者などに対する4回目接種実施を可能とすることを全国に通知。具体的には「重症化リスクが高い多くの方々に対してサービスを提供する医療機関や高齢者施設・障害者施設等の従事者」を対象とする考えを示した。
武田薬品工業が国内で製造・供給しているノババックス製ワクチン(商品名:ヌバキソビッド筋注)の接種対象年齢については、有効性・安全性のデータや諸外国の対応状況などを踏まえ、特例臨時接種として12~17歳に対し初回接種を行う場合にも使用できるワクチンとして位置づけることが決まった。
ノババックス製ワクチンは、ファイザー/モデルナのmRNAワクチンとも、アストラゼネカのウイルスベクターワクチンとも製造方法が異なる組換えタンパクワクチン。国際共同第3相試験で12~17歳に対する初回接種の有効性は「発症予防効果約80%」と報告され、安全性も確認されたことから、7月21日付で初回接種の対象年齢を「18歳以上」から「12歳以上」に変更する添付文書の改訂が行われた。
ノババックス製ワクチンについては、「mRNAワクチンと比べて副反応が少ないことから、副反応を恐れてSARS-CoV-2ワクチンhesitancy(忌避)で接種を控えてきた方には朗報」(日本医事新報7月23日号「質疑応答」での中山哲夫北里大特任教授の回答)など、専門家の間でも副反応の頻度の低さを評価する声が多く、組換えタンパクワクチンはB型肝炎ウイルスワクチンなどで長期の使用実績がある技術でもあることから、若年層の接種率向上を後押しすることが期待されている。
新型コロナワクチンと他疾病のワクチンとの同時接種については、これまで「安全性に関する十分な知見が得られていない」として「原則として13日以上の間隔を空ける」との取り扱いがなされてきた。22日の分科会では、インフルエンザワクチンについては、単独で接種した場合と比べ有効性・安全性が劣らないとの報告が相次いでいることから、間隔の規定を廃止し同時接種を認めることが決まった。
諸外国でも新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンとの同時接種は概ね認められており、米国、英国、カナダ、フランス、ドイツはいずれも同時接種可能としている(表参照)。一方、インフルエンザ以外のワクチンとの同時接種については諸外国でも対応に差があることから、「13日以上の間隔を空ける」方針を継続することとなった。
22日の分科会ではこのほか、ファイザーやモデルナが開発中の「オミクロン株対応ワクチン」を2022年秋以降に追加接種に導入する方向で検討することも決まった。
オミクロン株対応ワクチンの接種は「重症化リスクが高い高齢者等」に対し優先的に行われる見通しだが、厚労省は同日付の事務連絡で、「初回接種を完了した全住民を対象に実施すること」も想定して接種体制の準備を進めるよう全国に呼びかけた。
秋は季節性インフルエンザワクチンの接種を進める時期でもあり、オミクロン株対応ワクチンとインフルエンザワクチンの接種を円滑に進めるには、同時接種の体制確保が必須となりそうだ。