原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis:PBC)は,自己免疫学的機序による肝内小型胆管細胞の変性・壊死を主病変とした慢性炎症で,進行すると胆管消失を原因とした胆汁うっ滞性肝硬変に至る。中年以降の女性に好発するが,近年男性例も増加している。薬物治療が70~80%の患者に奏効することから,無症状で経過する症例が多く,長期予後も良好である。
病初期には長期間無症状であるが,中期・後期になると胆汁うっ滞による皮膚瘙痒感を原因としたかき傷を伴うことが多く,診断の契機になることも少なくない(症候性)。二次性脂質異常症に伴う眼瞼黄色腫を認めることもある。進行すれば門脈圧亢進症症状(黄疸,胃食道静脈瘤,腹水,肝性脳症)や,肝硬変に伴う臨床所見が出現する。約50%の患者は,病期にかかわらず倦怠感を訴える。
自己抗体のひとつである抗ミトコンドリア抗体(anti-mitochondrial antibody:AMA)が90%以上の症例で検出されるため,同時に胆道系酵素(ALP,GGTP)の上昇を認め,かつ他疾患が臨床的に除外できれば,血清学的に診断が可能である。病理組織学的には,慢性非化膿性破壊性胆管炎と肉芽腫の形成を特徴とする。AMA陰性症例,ならびに自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis:AIH)や脂肪性肝障害の合併を疑う症例では,肝生検による病理組織診が推奨される。
ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid:UDCA)13~15mg/kg/日による肝(胆管細胞/肝細胞)庇護療法が必要であり,胆道系酵素の低下が十分な症例では,進行抑制による長期予後の改善が得られる。脂質異常症薬であるPPARα作動薬ベザフィブラートにも生化学的改善効果が認められており,わが国では2000年頃よりUDCAの効果が不十分な脂質異常症合併例に併用されてきたが,最近この併用には長期予後の改善効果があることが報告された。UDCA投与開始1年後の生化学検査に改善が乏しい場合は,併用を考慮する。症候性PBCでは瘙痒症,脂溶性ビタミンの吸収障害による骨粗鬆症に対する治療が重要である。
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