10歳代後半~30歳代前半に好発し,急性期には幻覚や妄想などを呈し,再発(再燃)と寛解を繰り返す。慢性期においては社会参加が課題となる。ドパミン仮説などが提唱されているが,依然として病因や発症過程は明らかでない。
幻覚,妄想,精神運動興奮などの陽性症状(精神病症状)や,感情鈍麻や意欲低下などの陰性症状を呈する。病識が障害されるため,自身の体験が異常であると認識できない。診断に実用できる生物学的検査法は確立されていない。
統合失調症において,早期段階(early stage)と慢性期では病態が大きく異なる。初回エピソード(人生初めての病勢増悪,顕在発症)においては,精神症状や社会機能の悪化に加えて,微細ではあるが大脳の萎縮が進行するなど,生物-心理-社会的(bio-psycho-social)領域にわたり病態が進行する。顕在発症から治療開始までのタイムラグを表す「精神病未治療期間(duration of untreated psychosis:DUP)」が,転帰に重大な影響を与える。早期発見の上,遅滞なく治療を開始しDUPを短縮することは,治療反応性や寛解到達レベル,寛解に至るまでの期間,再発率などに良好な影響を及ぼす。発症から3~5年間は治療の成否をわけ予後を左右するため,治療臨界期(critical period)と呼ばれる。また,発症後2~3年以内は自殺のリスクが高いため,細心の注意を払う。
顕在発症の際には,速やかに抗精神病薬を開始することが重要であるが,病識が欠如し導入が困難なことが少なくない。医師-患者関係の構築に留意し,無理強いせず粘り強い説明が欠かせない。初回エピソードでは薬効が現れやすい一方で,副作用も発現しやすいため,低用量からの開始を原則とする。第二世代抗精神病薬を第一選択とし,その中での選択においては,症例ごとの臨床的特徴や副作用のリスクを考慮する。ジプレキサⓇ(オランザピン)とセロクエルⓇ(クエチアピンフマル酸塩)は,糖尿病患者に禁忌であることに留意する。近年,貼付剤が発売され,円滑な治療導入に寄与する可能性がある。
一方,慢性期においては,再発を防止するとともに,社会復帰や社会参加の拡充が重要な目標となる。服薬中断は高率に再発を引き起こすため,服薬継続とそれを支える取り組みが重要である。再発を繰り返すほど治療反応性は不良になり,機能レベルも低下していく。薬物療法と心理社会的療法を組み合わせた包括的な治療が欠かせない。服薬アドヒアランスが不良で継続・維持療法が難しい例では,持効性注射製剤の使用も検討されうる。
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