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体操からダンスへ[先生、ご存知ですか(59)]

No.5153 (2023年01月28日発行) P.71

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2023-01-30

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学習指導要領でダンスが必修化

先生方も学生時代にクラブ活動をされていたと思います。最近、ダンス部に所属する中高生が増えていると感じました。わが国では、2008(平成20)年3月に中学校の学習指導要領が改訂され、保健体育において、武道とダンスが必修化されました。ダンスの教育は、「創作ダンス」、「フォークダンス」、「現代的なリズムのダンス」で構成され、表現や踊りを通した交流を通して仲間とのコミュニケーションを豊かにすることを目的としています。これに伴って、幼少期からダンスをする人が増えてきました。

2014年に公開された東京都立高校を対象とした調査報告によると、高校のクラブ活動におけるダンス部員は年々増加し、女子の部員数はすべての部活動で最も多かったそうです。また、2015年の調査では小学校でダンススクールに通っている児童が約1割いるとのことです。

ダンスの効果

さて、適度な運動が健康に良いことは前回(No.5149)お話しましたが、ダンスの効果についても報告されています。高齢者が振り付けを覚えて、音楽にあわせて踊るのが主流ですが、このダンス活動を継続することで、運動機能の向上による身体的フレイル・サルコペニアの予防、体力の維持向上、認知機能の維持向上がみられるそうです。週に1回の社交ダンスに通う人を対象に、参加前と全40回に参加した後で認知機能(mini mental state examination:MMSE)を比較したところ、有意に認知機能が改善したそうです。

運動習慣を持っている人は将来の認知症リスクが低いことは周知のことですが、ダンスでも効果があることが分かりました。また、単純な運動よりも、時には頭を使いながら行うような運動を身につけることが良いと言われています。ダンスでは、振り付けを覚えたり、リズムにあわせて体を動かす、というような思考があるので、認知機能の維持や向上に効果的なようです。

疾病患者に対するダンスの有用性

健常者だけでなく、疾病患者に対してもダンスの有用性が指摘されています。認知症の患者に対して運動療法やリハビリテーションが行われますが、認知症患者がダンスを行うことで、抑うつ状態が改善され、幸福感や自己肯定感が向上するそうです。認知症患者では興奮、怒り、不安や抑うつ、幻覚などのBPSD (behavior and psychological symptom of dementia)がみられることがあります。ダンスはこのような認知症患者の周辺症状を改善する効果があるようです。精神疾患患者への心理療法の一環としてもダンスが取り入れられています。そして、うつ症状や不安症状の軽減、幸福感の上昇、ボディイメージの増加、認知スキルや対人スキルに効果をもたらすと言われています。

朝のラジオ体操がダンスに

ダンスには様々な種類がありますので、社交ダンスだけでなくストリートダンスやフラダンスの効果なども報告されています。運動の強度や使う筋肉に差があるものの、何人かで行うことにより、お互いのコミュニケーションがとれることは共通しています。したがって、ダンスを続けることは社会性を維持する上でも効果的です。今や、若い子の多くがダンスを行っていますが、この子たちが高齢者になる頃には、朝のラジオ体操がダンスに代わるかもしれません。

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