2023年4月1日から改正道路交通法が施行されますが、自転車乗員のヘルメット着用が義務化されます。同乗する人も着用しなければなりません。現在は13歳未満の子どもにヘルメット着用が義務づけられていますが、全年齢が対象になります。日本産業規格(JIS)で定められた自転車用ヘルメットを着用することになり、あご紐も付いています。努力義務なので罰則はありません。
警察庁の統計によると、最近5年間における自転車乗用中の死傷者約38万7000人のうち、10歳代は25%、20歳代は13%、30歳代と40歳代はそれぞれ12%と、多くの年齢層に分布しています。
事故で負う損傷で最も損傷程度が重い部位では、軽傷者や重傷者が下肢であるのに比べ(それぞれ36.7%および26.8%)、死亡者では頭部となり、57.7%を占めていました。したがって、自転車乗員の死亡者数を低減させるには、全年齢層に対して頭部外傷予防対策をとる必要がありました。
最近5年間に自転車乗用中に死亡した人のうち、ヘルメットを着用していたのは94人で、非着用者は2038人であり、圧倒的に非着用者に多いことがわかります。死傷者に占める死亡者の割合(致死率)は、ヘルメット非着用者が着用者の2.2倍でした。ちなみに、令和3年の自転車乗員による死傷者を対象に行ったヘルメット着用率の調査では、既に法律で着用が義務づけられていた小学生でも27.7%と低く、さらに高校生では7.3%でした。
これらの現状をふまえて、ヘルメットの着用が全年齢で義務化されることとなりました。なお、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどでは、年齢にかかわらず自転車に乗る際にはヘルメットを着用しなければならない、という法律が1990年代に制定されていました。予防に対しての取り組みでは、わが国をはるかにしのぐ先進国と言えるでしょう。
さて、ヘルメットが頭部外傷の予防に有用なことはお話しましたが、ヘルメットについて重要な点をご紹介します。
私たちは、ひとたび打撃を受けたヘルメットには十分な保護作用があるか、について検討しました。自転車に乗車しているときの目の高さは1.5m程度です。そこで、自転車乗車中に転倒してヘルメット越しに頭部を打撲した状況を再現しました。すなわち、人の頭部を模擬したインパクターに自転車用ヘルメットを着用し、1.5mの高さから落下させました。そして、その際に頭部にかかる加速度を測定しました。その結果、1回目の転落時に比べて2回目の転落時では、明らかに頭部にかかる加速度が増加していました。
この結果からわかったことは、一度打撃を受けたヘルメットではその保護作用が減弱する、ということです。肉眼ではヘルメットに明らかな損傷はみられませんでしたが、微細な構造に変化が生じていることがわかりました。したがって、一度転倒するなどしてヘルメットが外力を受けた際には、新しいヘルメットに交換することをお勧めします。
4月に向けて、自転車用ヘルメットをご用意ください。