急性心筋炎は,主に心筋親和性の高いウイルス(コクサッキーBウイルス,アデノウイルス,C型肝炎ウイルス等),そのほか細菌・真菌・寄生虫・毒物・薬剤といった外来性抗原あるいは自己免疫抗原に対する免疫応答によって惹起される1)。しばしば感冒症状や消化器症状に遅れて数時間~数日後に動悸,息切れ,脈拍異常,呼吸困難といった症状が出現し,心筋傷害・心筋壊死・刺激伝導系障害により急性心不全や徐脈性・頻脈性不整脈を発症する。多くの症例では,対症的な心不全治療により,発症後1~2週間で軽快・治癒し,心機能も正常化する。一部は心原性ショックや致死的不整脈(心室粗動・心室細動・重症伝導障害など)によって急激な血行破綻をきたす劇症心筋炎に至る。
劇症心筋炎においても,カテコラミン投与,大動脈内バルーンパンピング,経皮的心肺補助装置,体外式左心補助装置といった機械的補助循環や,不整脈治療で急性期を乗り越えられれば長期的予後は必ずしも悪くない。したがって,急性期には常に劇症化の可能性を念頭に置いて慎重に観察する。一方,炎症や心機能低下が遷延し,左室駆出率(EF)低下を伴う心不全(HFrEF)や拡張型心筋症(DCM)様の病態を呈することもあり,長期的な経過観察も重要である。
急性心筋炎は,自覚症状と心電図・心エコー検査・炎症所見などの臨床検査に加えて,侵襲的な心筋生検所見,すなわち,多数の大小単核細胞の浸潤,心筋細胞の断裂・融解・喪失,間質の浮腫や線維化といった組織像により確定診断される1)。特に,心不全治療に反応せず急速に劇症化しきわめて予後不良である巨細胞性心筋炎や,ステロイド治療が著効する好酸球性心筋炎の早期診断および治療方針決定には,急性期の心筋生検が有用である。最近では,心臓MRIによる心筋性状・心機能評価と心筋傷害マーカー(高感度トロポニン)の組み合わせにより,軽症・中等症心筋炎を安全かつ高感度に診断できる1)2)。
一般集団における心筋炎発症率の推定はきわめて困難である。多くの無症状あるいは自覚症状に乏しい軽症心筋炎は,医療機関を受診せずに自然軽快する一方で,突然死例は心筋炎と診断され難いためである。
188カ国150万人を対象に国際疾患分類(ICD-9)に基づいて1990~2013年における各種疾患発症率を検討したGlobal Burden of Disease Study(GBDS)2013では,急性心筋炎の発症率は10万人あたり22例(0.02%)であった3)。男女比は1.5:1で,20~40歳の若年者に好発した。一方,胸痛による救急室受診患者の3%が心筋炎であり,免疫チェックポイント阻害薬治療中の進行がんの1%に心筋炎が発症する1)。心臓突然死に占める心筋炎の頻度は,幼児で2%,小児で5%,若年アスリートで5~12%とされる4)。