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【識者の眼】「新たなドラッグ・ラグの解消に向けて」天野慎介

No.5164 (2023年04月15日発行) P.58

天野慎介 (一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長)

登録日: 2023-04-10

最終更新日: 2023-04-10

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いわゆるドラッグ・ラグとは、海外で承認されている薬剤が国内で承認され、使えるようになるまでに時間を要することを指す。2000年代に特にがん領域で問題とされ、例えば大腸がんに対するキードラッグであるオキサリプラチンが東アジアで未承認であったのは、日本とモンゴルと北朝鮮という時代もあった。ドラッグ・ラグの解消とがん医療の均てん化を求める患者や家族の声は、2006年のがん対策基本法の成立にもつながった。

国はPMDA(医薬品医療機器総合機構)における審査人員の増員と審査の迅速化、医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議の設置、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の導入などに加え、人道的見地から実施される治験(拡大治験)や患者申出療養制度の導入などによる未承認薬・適応外薬に対する取り組みを通じて、ドラッグ・ラグの解消に努めた結果、一時は「ドラッグ・ラグは概ね解消された」との声もあった。

しかし、国立がん研究センター先進医療・費用対効果評価室が行った調査では、2010〜14年に海外で承認され日本未承認であるがん領域の医薬品数が10であったのに対し、2015〜19年が40、2020〜21年が44と急速に増えている。この要因として、海外のバイオベンチャーが日本に拠点を有していない点、日本が国際共同治験に迅速に参加できなくなっている点、日本以外の東アジア諸国での開発が優先されている点など、多くの複合的な要因があると指摘されている。

2023年3月に閣議決定された国の第4期がん対策推進基本計画では、「日本の薬事規制等の海外の中小バイオ企業への周知等を通じ、日本での早期開発を促すなど治験の実施(国際共同治験への参加を含む)を促進する方策を検討するとともに、関係学会及び企業等と連携した研究開発を推進する。また、それらの実用化に向けた課題の整理と、既存制度の見直しを含めた対応策の検討を行い、速やかな医療実装を着実に進める」とされた。全国がん患者団体連合会などからの要望を受け、国会の超党派議連「国会がん患者と家族の会」が修正・追記を求めて記載された文言ではあるが、実現は容易ではない。

小児がん患者団体などは、米国で2017年に成立した「RACE法(小児の治療法と公平化のための研究に関する法律)」をモデルに小児のドラッグ・ラグ解消につながる法制度での対応を要望しており、日本での導入を検討する厚生労働省の研究班も発足している。新たなドラッグ・ラグの解消に向けて、法制度での対応を含む迅速な対応が期待される。

天野慎介(一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長)[国際共同治験][第4期がん対策推進基本計画][RACE法]

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