ワクチンを接種する主な目的は、被接種者自身をワクチンで予防できる疾患(vaccine preventable diseases:VPD)から守ることであるが、個々人が免疫を獲得することにより周囲の人へ伝播する機会も減少するため、集団免疫効果(herd immunity)を得ることもできる。
たとえば、わが国では2013年に、小児を接種対象とした肺炎球菌結合型ワクチンが定期接種化された。そして、国内における65歳以上の肺炎球菌性肺炎の原因菌のうちワクチンに含まれる血清型が占める割合は、2011〜14年の55.5%から2016〜20年の32.2%に減少した1)。小児における肺炎球菌ワクチンは通常0〜1歳で合計4回接種する必要があるが、その接種率は常に95%以上で維持されている。乳児たちは、何度も病院やクリニックを訪れ、ワクチン接種の痛みに耐えることにより、自らだけでなく、そばにいる同年代の友人、そして高齢者をも肺炎球菌感染症から守ってくれているのである。
一方で、大人は子どもたちをVPDから守ることができているだろうか? 国内においては、2019年4月〜25年3月の間、風疹の定期接種を受ける機会が一度もなかった1962(昭和37)年4月2日〜79(昭和54)年4月1日生まれの男性を対象に、風疹第5期定期接種が実施されている。第5期接種に使用される麻しん風しん混合ワクチン(MR)は、小児を接種対象とした第1、2期にも使用されるため、その需給バランスを安定維持することを目的に、第5期接種前には抗体検査を行い事前に接種適応の有無を確認することになっている。通常、抗体検査結果には数日を要するため、多忙な世代である被接種者にとっては、複数回、病院やクリニックを訪れることが大きな負担となっている。その結果、22年11月の時点で抗体検査を受けた人の割合は28.6%、実際の接種率は6.2%にとどまっている2)。
風疹は、成人男性が罹患しても重症化することは稀であるが、妊婦が風疹に罹患することにより発生する先天性風疹症候群は、先天性心疾患、難聴、白内障などの非常に重篤な合併症を引き起こすことが知られており、子どもたちの命を奪うこともある。すなわち、風疹第5期接種は、被接種者自身の感染予防よりもherd immunityの獲得が接種の主な目的となっている。
他者を守るためにワクチンを接種することは、自分自身を守るために接種することと比較すると、受け入れがたいことは当然であるが、第5期接種の対象となっている方は、自身の子どもや孫だけでなく、周囲の子どもたちを守るために抗体検査およびワクチン接種をぜひ検討して頂きたい。そのためには、医療従事者からの継続的な啓発が必須である。我々大人は、今はまさにherd immunityを介して大人を守ってくれている子どもたちに恩返しをするときである。
【文献】
1)Maeda H, et al:Vaccine. 2022;40(37):5504-12.
2)国立感染症研究所:病原微生物検出情報. 2023;44:53-5.
勝田友博(聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)[VPD][集団免疫効果][風疹第5期接種]