もう3カ月経ったが、日本プライマリ・ケア連合学会では今年5月12〜14日に愛知にて学術大会を開催した。テーマは「プライマリ・ケアの卓越性と次世代医療の融合」で、数多くの新しい試みを現実のものとした画期的な内容であった。
具体的には、ポートメッセなごやという国際展示場を会場とすることで、国際会議場のような大ホール、小ホール、会議室をエレベーターなどで移動する典型的なスタイルではなく、吹き抜けの広い会場に仕切りを設けて、シンポジウム、教育講演、ワークショップを提供する場を数多く設置する開放的なスタイルをとった。結果的に、ある講演やシンポを聞きつつも、周囲で様々なイベントが提供されていることを全身で感じることができ、会場全体の一体感が創出された一方で、どうしても気密性には欠けるため、他会場の音が一部気になったという不満の声も上がった。また、一覧性があるため、様々なセッションに積極的に参加できたという声もあれば、バラバラな感じもあって落ち着いて参加できなかったという声もあった。
他にも次世代医療展示ということで、先進的なデバイスやAI問診システムなどの開発に取り組むメーカーの出展ブースが設置され、医療とアートの学校というテーマで医療機関の中に積極的にアートを取り込むことで素敵な環境を整えケアに役立てる実践の紹介の場が提供されるなど、従来の医療の枠組みを超えようとする企画も多く提供された。また、トヨタのお膝元ということで、コロナ禍での感染診療に力を発揮した診療車の展示とトヨタ自動車の担当者からのコラボの喜びを伝える説明も新鮮だった。こうした企画は従来、学会会場のメインの場からはやや離れて位置づけられてきたが、今回の大会では会場の中央に設置されたことで、医療と社会をつなぐプライマリ・ケアのありよう自体が可視化されたことにも大きな意義があり、参加して大変心地よいものだった。
さらに、会場の外では、JR東海とコラボした学会参加者用のイベント新幹線の運行、隣接するレゴランド・ジャパンでの懇親会など、かつてない楽しみの提供も新鮮だった。とはいえ、海外ではよくあるこうした企画も、比較的真面目で落ち着いた企画が一般的といえる日本ゆえ、戸惑いを覚える参加者も少なくなかった。
学術大会の意義は日々の診療や研究活動の発表と意見交換、さらには専門領域の生涯教育がメインになるのはもちろんだが、自分にはない思考や感性にヒト・モノ・コトバを通じて触れる意義も大きいと感じている。本大会はそうした息吹を感じる場であったと今改めて振り返っている。プライマリ・ケアという学術領域が、関係者が仕切る閉鎖的な場になることで社会から乖離しないためにも、学会理事長としてはこうした挑戦には今後も寛容でありたいと感じている。
草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]