文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が8月に公表した『科学技術指標2023』で、日本の被引用数のトップ10%論文数が過去最低の13位となった。日本の科学研究力は低下しているのか。同指標をまとめたNISTEP科学技術予測・政策基盤調査研究センター長の伊神正貫氏に聞いた。
論文の生産への貢献度を見る分数カウント法での日本の論文数(2019〜21年の平均)は7万775報で、その数自体は増加しており、中国、米国、インド、ドイツについで5位です。しかし、注目度の高い論文を見る指標である被引用数トップ10%補正論文数(分数カウント法)は昨年の12位から後退して13位になりました。最近の動きについては、日本の科学研究力が低下したと言うよりは、1位の中国、12位になったイランなど他国の伸びが著しいからではないかと考えています。確かに、日本のトップ10%補正論文数は減少傾向でしたが、最近では下げ止まってきています。
他方で中長期的には、いくつかの課題が見られます。たとえば、日本の大学の研究開発費は世界4位の規模であるものの、2000年代に入ってからほぼ横ばいで、他の主要国と比べると伸び悩んでいます。また、FTE(研究専従換算した)研究者数は、中国、米国、韓国、ドイツなどでは年々増加しているのに対し、日本では2000年代からほぼ横ばいです。大学に社会貢献、産学連携など多様な活動を求められるようになる中で、研究時間が確保しにくくなっていることがうかがえます。
さらに、イランなどトップ10%補正論文数が伸びている国では博士課程の学生が増えているのに対し、日本では博士課程の入学者数が2003年度をピークに減少しているという問題もあります。博士課程の学生に生活費と研究費を補助する次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)や大学フェローシップ創設事業などが始まっており、今後、博士課程進学者の増加を期待したいところです。