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【識者の眼】「新型コロナとの闘い⑥─度重なる感染拡大により医療崩壊寸前に」田中雄二郎

No.5190 (2023年10月14日発行) P.54

田中雄二郎 (東京医科歯科大学学長)

登録日: 2023-09-28

最終更新日: 2023-09-28

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2020年8月にICUを改装し、26床のうち14床を一般用に、壁で区画された陰圧病床12床をコロナ用(当初は看護師を配置できず8床で運用)とした後、第3波(20年12月〜21年2月)、そして第4波(α株)(21年3〜6月)を迎えることとなった。

第4波の頃から顕著になったのは、医療者の疲弊である。オミクロン株となってからコロナ禍は、社会からすっかり忘れ去られた感も出はじめたが、生死を賭けるような緊張感の中でのコロナ対応だけでなく、通常診療も両立させなければならず、疲労感は病院全体に広がっていた。

通常診療用の病床は全病床の6割程度にまで減っていたが、ICU/HCUのベッドでは通常診療用の患者は半数以下しか利用できなかったので、一般病棟に重症患者が入り、看護必要度が以前に比べ130〜140%近くまで跳ね上がった。メンタルヘルスケアチームからの報告では、通常診療に携わる医療者のストレス指数(PHQ-9、 GAD-7)が上昇し、コロナ対応の医療者と同レベルに近づいていた。「これ以上の業務負担は、離脱者の増加をまねく可能性が強く危惧される」というコメントつきの報告だった。

感染制御部を中心とした感染対策の徹底で、医療者の集団感染は防げていたものの、感染者は通常病棟の患者や医療者にも散発的に発生し、濃厚接触者への2週間待機措置などで離脱者が常に一定数発生した。この上、メンタル面での離脱者が増えれば、ドミノ倒しのような状況になると内田信一病院長(当時)から深刻な申し入れがあった。

コロナ病棟を縮小せざるを得ないかもしれないという時期に、第5波(δ株)(21年7〜9月)が到来した。α株に比べて致死率・重症化率は変わらず、感染力は増大したδ株の流行により、中等症、重症患者の数も増え、4回目の緊急事態宣言が発出された。本学病院だけでなく、コロナに対応していた病院全般の医療者が疲弊していると思われるときに、どこもそう簡単に受け入れ態勢を強化できるはずもなく、行き場のない重症患者を乗せた多数の救急車が本学病院の救命救急センター前に停まり、患者は救急車内で処置を受けていた。収容先が見つかればそこから出発するが、見つかる前に酸素飽和度が下がり、緊急挿管してICUに直入することもあった。その場合は、本学のICUから症状が一番軽い患者(と言っても重症者)を中等症ベッドに移すしかなかった。

さらに中等症の急変用に空けてあったICUのバッファーベッドも埋まり、職員に感染者が出たときのための中等症ベッドも埋まったそのとき、厚生労働大臣と東京都知事の連名で受け入れ要請が来た。やむなく、通常診療の大幅制限に踏み切った。第5波のピーク時は、通常診療の病床稼働率は50%近くまで低下した。コロナ重症を4床、中等症を24床増やして看護師を配置した結果、200人近くも通常診療の入院患者が減ることになった。

いくらδ株の流行が深刻だとは言え、これでは通常診療の責務が果たせない。構造的な問題があるに違いないと思った。

田中雄二郎(東京医科歯科大学学長)[δ株][通常診療の制限][医療者の疲弊]

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