腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli: EHEC)は志賀毒素を産生する大腸菌(Shiga toxin-producing Escherichia coli:STEC)と同義であり,汚染された水,牛肉,野菜などを介して感染することが多い。原因の約7割はO157:H7で,それ以外はO26,O103,O111等が多い。感染者は無症状のこともあるが,下痢(水様便や血便),激しい腹痛,発熱,嘔気・嘔吐などの消化器症状を呈することが多い。2~20%の患者は重篤な合併症である溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)を合併し,急性期死亡率は約2~5%に及ぶ。死因は脳症,心不全,消化管穿孔等が多い。HUSの主要症状である急性腎障害(acute kidney injury:AKI)の多くは回復するが,後に腎機能低下,蛋白尿,高血圧などが問題となることがある。中枢神経症状の後遺症は,精神運動発達遅滞,てんかん,発達障害,学習障害などがある。HUSの診断・治療ガイドラインが公開されている1)。
便培養検査,便中志賀毒素直接検出法,便中志賀毒素遺伝子のPCRによる検出法,血清抗病原性大腸菌O157 lipopolysaccharide(LPS)抗体測定法などが有用である。
以下の三徴候で診断する。
①溶血性貧血〔破砕状赤血球を伴い,ヘモグロビン(Hb)10g/dL未満〕。
②血小板減少(15万/μL未満)。
③AKI(小児では血清クレアチニン値が年齢・性別基準値の1.5倍以上)。
HUSは小児や高齢者に発症することが多く,20~60%の患者が透析を要するAKIを合併し,1/4~1/3の患者が脳症 (意識障害,痙攣等)を呈する。また,循環器症状(心筋梗塞,心不全,不整脈)も稀に合併する。EHECによるHUSの診断の際には,血栓性血小板減少性紫斑病,補体制御異常による非典型溶血性尿毒症症候群,これら以外の二次性血栓性微小血管症が鑑別診断になる。
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