編著: | 猿田雅之(東京慈恵会医科大学内科学講座消化器・肝臓内科 主任教授) |
---|---|
判型: | B5判 |
頁数: | 270頁 |
装丁: | 口絵カラー |
発行日: | 2023年02月24日 |
ISBN: | 978-4-7849-6350-8 |
版数: | 第1版 |
付録: | 電子版付き |
「診察室を出る患者さんに,希望を持って帰ってもらうには―」。
不安や不自由さを抱える患者さんに対する「慈恵医大・猿田式」の傾聴・診断のエッセンスを解禁。
●最新の知見,治療の選択肢・組み立てはもちろん,「逆紹介されてから」のノウハウもたっぷりと凝集。
●患者さんに寄りそっていく疾患だからこそ,診療所やクリニックの先生必読の1冊です。
1章 ◉ 炎症性腸疾患の概要
❶炎症性腸疾患(IBD)とは
コラム① IBDの原因はどこまで解明されたか
2章 ◉ 診 断
❶IBDを疑うべき症状
コラム② IBDの腸管外症状
❷IBDを疑う患者に対する問診
❸IBDを疑う患者の身体診察
❹IBDに特徴的な肛門病変 ―肛門科クリニックにおけるIBD診療
❺IBDを疑う患者の検査
(1)IBD患者における血液検査データ
(2)IBD患者における便検査
(3)IBD患者における放射線診断検査
(4)IBD患者における内視鏡所見の特徴と読み方
(5)IBDの鑑別に挙げられる疾患の患者における内視鏡所見の特徴と読み方
(6)IBDの病理
コラム③ 尿でもUCの評価が可能に? ―尿中PGE-MUM
コラム④ IBD患者における組織生検の注意点
コラム⑤ indeterminate colitis/IBD-Uとは
3章 ◉ 外来でのフォローアップ
▶ESSENCE 私が実際の外来診療で配慮していること
❶IBDの重症度を見極める ―軽症とは?重症とは?
❷IBDの治療 ―外来診療でできるIBDの管理
コラム⑥ 漢方はIBDに有効か
コラム⑦ 重症に対する治療とは何か?手術を考えるとき
コラム⑧ IBDの入院治療の実際
❸フォローアップの仕方
(1)診察
(2)血液検査(検体検査)
(3)紹介のタイミング
(4)5-ASA製剤の内服管理
(5)局所製剤の使い方
❹逆紹介されてから〈こんなときどうする?〉
(1)5-ASAを内服していないのでは?
(2)5-ASAアレルギーかも?その対策は?
(3)大腸内視鏡検査の間隔は?
(4)食事,栄養管理をどうする?
コラム⑨ 当院における管理栄養士のIBD患者への関わり
(5)再燃の徴候はどうとらえる? 便中カルプロテクチンの評価
(6)「最近,便回数が多い」という訴え ―炎症?IBS的要素?
(7)「たまに出血する」という訴え
(8)再燃予防のための注意点
(9)「妊娠したい」と言われた
(10)インフルエンザや肺炎球菌などの予防接種は?
コラム⑩ 妊娠・授乳とIBD治療
コラム⑪ IBDと発癌
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)やクローン病(Crohn's disease:CD)に代表される炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)は,かつては欧米諸国に多くアジア諸国には少ない疾患と理解されていたが,近年わが国でも増加の一途をたどり,特にUCの患者数は米国に次ぐ世界第二位にまで達している。UCもCDも現段階では完治しえないため,わが国では指定難病に該当し,臨床症状を抑えて長期に寛解を維持し,生活の質を回復させることが治療目標とされてきた。近年では,臨床的寛解に加え,内視鏡的に粘膜の炎症が完全に消失した「粘膜治癒」が新たな治療目標となり,この目標を達成するために治療の適正化をはかることを“treat to target”と呼び,IBD治療を行う上で大切な概念である。IBDの軽症では,基準薬の5-アミノサリチル酸製剤で治療を開始するが,無効の場合には副腎皮質ステロイド剤が適応となる。副腎皮質ステロイド剤に抵抗あるいは依存で中等症以上のIBDでは,生物学的製剤である抗TNF-α抗体や抗α4β7インテグリン抗体,抗IL-12/23p40抗体などが選択可能となっている。さらに,JAK阻害薬,抗IL-23p19抗体,スフィンゴシン-1-リン酸受容体作動薬などの様々な薬剤の国際共同治験がUCおよびCDの両者に対して進行し,IBDの治療内容が疾患によらず均一化するなどの大きな変化も訪れている。治療選択肢が多様化・複雑化することで,診療所・クリニックなど実地医家での治療が難しくなっているが,一方で,今後も増え続けると予測されるIBD患者をIBD専門施設のみでは診療しきれない状況にもなっており,専門施設と実地医家との密接連携が求められている。具体的には,実地医家でIBDを疑い診断や治療を行うが,疾患活動度が高い場合には専門施設で治療を行い,病態が長期安定したら再び実地医家にて治療を継続する「病診連携」が求められ,今後のIBD診療において重要なポイントとなっている。
本書では,IBDの疫学的な現状の把握に始まり,現状で判明しているメカニズムや病因論,どのような症状からIBDを疑い,どのように確定診断をつけるか,鑑別すべき疾患とはどのようなものか,どのように病態を管理するのか,基準薬の正しい使い方から副作用について理解することなど,IBD診療において基礎的ではあるが重要なポイントを把握することを主たる目的に構成し,私が主宰する東京慈恵会医科大学の内科学講座消化器・肝臓内科で実際に重視しているポイントを,当科の医局員だけでなく,関連する消化管外科学講座や病理学講座にも協力を仰ぎ,執筆・編集した。この『診療所で見極めるIBD診療』が,日々消化器疾患の診療に従事する消化器内科医におけるIBD診療の一助となれば幸いである。
令和5年2月吉日 猿田雅之