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【識者の眼】「はい、こちら病院紹介所?」関なおみ

No.5194 (2023年11月11日発行) P.56

関なおみ (東京都特別区保健所感染症対策課長、医師)

登録日: 2023-10-25

最終更新日: 2023-10-25

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本年5月8日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の位置づけが、感染症法上の5類定点把握対象疾患へ移行した。9月30日までを段階的な移行措置期間として、医療費の一部公費負担や、行政による入院調整等が継続されたが、この間、筆者が勤務する保健所は、区で設置したフリーダイヤルのコールセンターを継続した。

5月8日〜9月29日の間(注:平日9〜17時のみ)に、コールセンターへ寄せられた総相談件数は2093件で、その内訳は、外来対応医療機関の紹介が896件(42.8%)、療養期間や濃厚接触者に関することが258件(12.3%)、療養通知書や宿泊療養証明書に関することが227件(10.8%)で、医療職対応となった医療相談は193件(9.2%)のみであった。

最も多かった「医療機関紹介」について、具体的な相談内容としては、かかりつけ医がいないので何処に受診すればいいのかわからない、といった典型的なものから、東京都の外来対応医療機関リストをみて電話をしたが予約がいっぱいだと言われた、かかりつけ医に受診を断られた、妊娠や基礎疾患でフォローされている医療機関にCOVID-19陽性者は診れないと言われた、等であった。

これに加え、医療機関スタッフの態度が悪い、検査や投薬の説明が一切なかった、とにかく保健所に電話するようにと言われた、といった内容もあった。

医療機関紹介についてはCOVID-19発生以前から、東京都医療機関案内サービス「ひまわり」や東京消防庁の#7119が病状に応じた案内を行っており、また、各医師会の医療機関検索サイトや民間口コミサイトなどもあることから、これまで保健所が医療機関を紹介するということはしてこなかった。

保健所が一番情報を持っている、保健所の言うことなら信用できる、と思って問い合わせてくるのかもしれないが、保健所が特定の医療機関を紹介することはできないし、個人のニーズに合わせてマッチングする機能は持っていない。必要だからやれというのなら、続ける心構えがないわけではないが、そもそもこれは保健所の仕事なのだろうか?

保健所は診療所の開設許可や、医療機関の指定、入院勧告等を行っているが、保健所が把握しているのは医療法や感染症法に基づいた届出項目を満たしているかどうかであって、医療機関に求めているのは診療の場にふさわしい衛生的な環境かどうか、ということだ。

類似の話であれば、飲食店の許認可は保健所がやっているが、保健所にいいフレンチレストランを紹介してくれと問い合わせる人はいない。

一方で、都市部では医療機関が集中し、患者が選択できる環境において、営利化している現状もある。医療機関が可能な広告内容は、医療法において範囲が規定されているが、そのうち、食べログやミシュランが飲食店を、接客、メニュー、技術、コスパなどの点から評価しているように、医療機関もスタッフの人柄、手技、院内の雰囲気、インフォームドコンセントの状況等で格付けするようになるかもしれない。

自由主義経済が浸透する中、医療機関が飲食店化しているのか、患者が消費者化しているのか、それとも両方か。

関なおみ(東京都特別区保健所感染症対策課長、医師)[医療機関紹介][医療機関の質の評価][コールセンター業務]

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