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米国におけるマラリアの流行[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(17)]

No.5196 (2023年11月25日発行) P.17

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

登録日: 2023-11-23

最終更新日: 2023-11-21

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●マラリアとは1)

マラリアは,蚊(主にハマダラカ)による感染症です(蚊媒介感染症)。マラリアは世界中の熱帯・亜熱帯地域で流行しており,2022年12月に公表されたWHOの最新の世界マラリア報告によると,2021年の1年間に約2億4700万人が感染し,推計61万9000人が死亡しています。

以前,本連載第15回(No.5188)「韓国における三日熱マラリアの流行」で解説したように,2023年は,新型コロナウイルス感染症の感染防止対策として実施されていた渡航制限が世界各国で解除になり,その結果,ヒトの移動が活発になり,世界でマラリアの報告が増加しています。

マラリアの種類・症状・検査・治療などについては,前述の本連載第15回で解説していますのでご参照下さい。今回は,米国におけるマラリアの流行について解説します。

●米国におけるマラリアの流行2)3)

2023年10月4日に,米国のアーカンソー州保健局から約50~60年ぶりに国内で感染した可能性が高い熱帯熱マラリアが報告されました。感染者の個人情報を保護するために,年齢,性別などは公表されていません。限られた情報によると,感染者は約7~10日前に発症し,入院して治療を受けましたが,その後回復しているようです。

アーカンソー州保健局は,感染者に国外への渡航歴がないことを確認しましたが,最近確認されたマラリア症例のある国内の他の州に渡航したことがあるかどうかは明らかにしていません。

アーカンソー州は1920〜30年代にかけて,全米で最もマラリア罹患率の高い州のひとつでした。第二次世界大戦後,政府はアーカンソー州全域で積極的な蚊撲滅キャンペーンを展開し,1947〜53年にかけて数十万戸に殺虫剤を散布しました。その結果,1951年までに,州内でマラリアの症例は報告されなくなりました。

2023年10月5日時点で,米国では以下の地域から,計10例のマラリア症例が報告されています。全員が治療を受け回復し,死亡例は報告されていません。

・テキサス州メキシコ南部キャメロン郡1例
・フロリダ州サラソタ郡7例
・メリーランド州首都圏1例
・アーカンソー州サライン郡1例

●アーカンソー州保健局による対策

アーカンソー州保健局は,本症例の発生を受けて,州全体に蚊媒介性疾患注意報を発令しました。虫除け剤を使用し,長袖・長ズボンを着用し,蚊の繁殖地を少なくするために立木の水を抜くなどして,蚊に刺されないよう住民に注意を呼びかけています。

さらに州保健局は,渡航歴がなくても発熱やその他のマラリア症状がある場合はマラリアの可能性も検討するように,医療従事者の意識を高めています。

日本でも,マラリアといった蚊媒介感染症の動向に注意していきましょう!

【文献】

1) 国立感染症研究所:マラリアとは. (2023年10月24日アクセス)

2) ARKANSAS DEPARTMENT OF HEALTH. (2023年10月24日アクセス)

3) 米国CDC:Locally Acquired Cases of Malaria in Florida, Texas, Maryland, and Arkansas. (2023年10月24日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。

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