アルコール関連肝疾患(alcohol-related/associated liver disease:ALD)は過剰飲酒に起因する肝臓病で,アルコール使用障害(alcohol use disorder:AUD)を背景とすることが多い1)2)。アルコール依存症者(alcoholics)に対する偏見を払拭すべく,欧米ではalcoholicという用語を極力排除し,alcohol-related/associatedと表記されるようになっており,わが国でも“アルコール関連肝疾患”への呼称変更が提起されている3)。ALDは初期病変の脂肪肝から脂肪肝炎を経て肝硬変へと進行し,肝癌の発症母地としても重要である。急激な飲酒量増加によりアルコール関連肝炎(alcohol-related/associated hepatitis:AH)が惹起され,その繰り返しで肝線維化が進行するが,重症例はacute on chronic肝不全の病態を呈して予後不良である。ALDの病態は栄養障害と関連が深く,近年はメタボリックシンドロームの合併も問題視される。
ALDは血清肝酵素上昇(AST>ALT,γ-GTP高値),腹部超音波検査やCT・MRIなどの画像診断での脂肪肝の所見に加えて,アルコール使用歴の詳細な聴取が重要である。AUDのスクリーニングにはAUDIT(alcohol use disorders identification test)などの問診票が有用である。アルコール依存症の診断には長らくICD-10の基準が用いられてきたが,WHOは2022年1月にICD-11を発効しており,わが国でもICD-11基準への移行が進められている3)。
一般的に5年以上の常習飲酒(純エタノール換算60g/日以上)が過剰飲酒とされるが,女性やアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)活性欠損者(ヘテロ型)ではその2/3程度の飲酒歴でもALDをきたしうる3)4)。ALDH2活性欠損は遺伝子解析を行わなくてもフラッシングの有無で判定可能だが,飲酒継続により飲酒耐容量の増加とともにフラッシングは軽減するため,飲酒開始初期のフラッシングを聴取する必要がある。飲酒量の客観的評価は案外難しいが,直近2~3週間の飲酒量を反映する間接的バイオマーカーとして,糖鎖欠損トランスフェリン/トランスフェリン比(%CDT:carbohydrate-deficient transferrin)測定がALDの診断補助に有用である3)4)。
純粋なALDの診断には他の肝障害の成因(ウイルス性肝炎や自己免疫性肝疾患など)を除外する必要があるが,合併していることも少なくない。メタボリックシンドロームを背景とする代謝障害性脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction- associated steatotic liver disease:MASLD),特に代謝障害性脂肪肝炎(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis:MASH)との鑑別は時に難しく,男性で30g/日,女性で20g/日を超える飲酒を伴う脂肪性肝疾患をmetabolic and alcohol related/associated liver disease(MetALD)と呼称することが提唱されている5)。
肝線維化の程度に関しては,Fib-4 indexや各種血清肝線維化マーカーおよび超音波エラストグラフィー検査(フィブロスキャン®など)による非侵襲的評価が有用である。肝予備能低下はプロトロンビン時間延長(PT-INR値上昇),血清アルブミン値の低下や血清ビリルビン値上昇,および腹水や肝性脳症の程度・治療応答性で総合的に評価する(Child-Pughスコア)。CT・MRIでは門脈圧亢進症所見(脾腫や門脈-大循環短絡路)や肝癌合併の有無の検索に加えて,膵病変(慢性膵炎・膵癌)のスクリーニングも可能であり,上部内視鏡検査は食道・胃静脈瘤のチェックのみならず,頭頸部・食道癌のスクリーニングとしても重要である。
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