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【識者の眼】「地方自治体が統合医療を推奨することの是非」大野 智

No.5205 (2024年01月27日発行) P.64

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)

登録日: 2024-01-16

最終更新日: 2024-01-16

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先日、インターネットテレビのニュース番組の取材を受けた1)。大阪府泉大津市が実施している新型コロナウイルス感染症の後遺症に関するオンライン相談事業2)において、担当する医師の一部がホメオパシーをアピールしていることの問題点について解説してほしいとのことであった。

ホメオパシーは、200年以上前にドイツで確立された医療体系で、健康な人に症状を引き起こす物質をきわめて少量与えることにより、体の抵抗力を引き出し症状を軽減する治療法と説明されている。そして、泉大津市のオンライン相談を担当する医師が「ホメオパシー医療を取り入れ、カルマ、トラウマ、過去生、未来生に関わるすべての時間・空間を超えた医療をコンセプトに行っている」と市のサイトで語っている。しかし一方で、日本学術会議からは「ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されている」との会長談話(2010年8月24日)が出されている。

ホメオパシーの問題点を「健康被害」「経済被害」「機会損失」の視点で考えてみる。

■健康被害

ホメオパシーでは植物、動物組織、鉱物等を極度に薄めた水を砂糖玉に染み込ませたレメディを用いるが、海外ではホメオパシー製品に活性成分、重金属、アルコールなどが含まれているケースが報告されており、製品そのものによる健康被害に警鐘を鳴らしている。また、地方公共団体が委託する事業で健康被害が発生した場合、責任の所在はどこにあるのかといった課題もある。

■経済被害

当該事業では参加者に費用は発生していないが、市の予算として約1600万円が計上されている。科学的な裏づけに乏しい医療行為に公金を用いることについて、市は納税者に対して説明責任を果たさなければならないのではないか。

■機会損失

本人が新型コロナ後遺症による症状だと認識していても、もし別の疾患によって引き起こされているものであったならば、適切なタイミングで適切な治療を受ける機会を失うことにもなりかねない。

また、地方公共団体が行っている事業であるということ自体が、効果について「信頼性が担保されているのでは?」といったバイアスがかかる可能性があり、その結果、患者や国民に誤解をまねくことにつながりかねない。

取材後、記者から市の担当者に何か伝えたいことはないかと問われた。もし、既に参加者にホメオパシーが実施されているのであれば、上記3つの注意点について整理・検討頂くとともに、実施後の効果について医学的に評価を行い、「効果が実感できた」といった良いことばかりでなく、「効果が実感できなかった」「副作用があった」などの悪いことも含めて情報収集を行い、客観・中立的に事業の検証を行ってほしい旨をお願いした

【文献】

1)ABEMAヒルズ公式サイト:市の「コロナオンライン相談」でホメオパシー.(2023年12月26日)
https://abema.tv/video/episode/89-71_s10_p5838?utm_campaign=episode_share_cy&utm_medium=referral&utm_source=referral

2)泉大津市公式サイト:新型コロナオンライン相談.
https://topfellows.net/izumiotsu_online/

大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法

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