年が明けてまだ間もない元旦に起こった石川県能登地方を中心とする地震は、多くの犠牲者を出し、今もなおたくさんの方が避難生活を強いられています。心よりお見舞い申し上げます。
少子化が進むわが国では、このような大災害が起こると、どうしても高齢者を含む大人の事情が優先されがちです。やむをえない事情もあるかもしれませんが、だからこそ、小児医療者は子どもや保護者のニーズを代弁し、支援する役割があります。
東日本大震災や熊本地震などの災害経験から、子どもの災害支援に関しても多くの知見が生まれ、現場で活かされてきています。本稿で少しご紹介したいと思います。
たとえば乳児の栄養に関して、以前は「災害時にはストレスで母乳は出なくなるから、ミルク栄養を勧めることが重要だ」とする意見も目立ちました。しかし最近では、母親が安心できる適切な環境を整えることで母乳は出やすくなることがわかっています。清潔環境の維持が難しい可能性のある災害時には、容器を消毒する必要のない母乳栄養のメリットは大きく、避難所では安心して授乳できるスペースの確保が強調されるようになりました。一方で液体ミルクの登場はミルク授乳の赤ちゃんにとって朗報でした。調乳の手間が省け、70℃以上のお湯による殺菌も不要な液体ミルクは、まさに災害時には大きな味方です。必要な方に届くことを願っています。
また、災害時によく見られる子どもの言動や反応も知られるようになりました。赤ちゃん返りや夜泣きの再燃などがあると、保護者も途方に暮れます。また同じ話を繰り返したり、災害を再現するごっこ遊びをしたりする子どもにショックを受ける保護者もいます。しかし、これは子どもが子どもなりに災害を受け止め、体験を消化するために必要なプロセスと考えられています。「災害時にみられる子どもの異常な行動」は「非常時における正常な行動」と言えます。生活への影響が見られなければ様子をよく見て、大きく受け止めてしっかり抱きしめてあげることと、同時に不安を感じる保護者が相談できる場の存在が重要です。
また、避難所の環境はアトピーや喘息、食物アレルギーなどアレルギー児にも大きな影響を及ぼします。たとえば東日本大震災では、食物アレルギーの児を持つご家族の中に「食物アレルギーの存在を伝えたら甘えていると思われるのではないか」と不安を感じたというケースが報告されています。アレルギーは決して甘えではなく、堂々と対策を求め、それに対応できる環境が大切です。避難所運営側には「アレルギーのある方は遠慮なく声をかけて」と支援を求めやすい環境整備も求められます。
子どもの安全管理に関しても、最近は重要視されるようになりました。避難所では不特定多数の方の出入りがあるため、防犯対策は非常に重要です。特に子どもは、トイレや入浴施設周辺などで性犯罪の被害に遭うこともあるため、常に大人が見守る体制の確保が求められます。
最後に、多くの人が密集する災害時には1〜2週間ほどしてから避難所を中心に感染症が流行します。過去には百日咳や麻疹の流行も報告されています。したがって平時にきちんと予防接種を完了しておくことは、実は災害対策としても有効だと、改めて強調しておきたいと思います。
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[避難所での配慮][感染対策]