前回の記事で、カンファレンスにおけるグループ・ファシリテーションの重要性とその考え方について端的に触れた。
では、医療者以外の方々が集まる「がんサロン」などでも同じような形でのスキルが求められるか? となると、これはまた別である。もちろん、がんサロンでもグループ・ファシリテーションのスキルが求められることは同じである。しかし、何らかの結論が求められるカンファレンスとは異なり、がんサロンでは参加者一人ひとりの「存在が承認されること」が目標の1つとなる。
患者や家族が、がんサロンに参加する理由は様々あるが、総じて彼ら彼女らは病気や社会から傷つけられ、孤立し、世間に対する不信に苛まれている場合が少なくない。その背景を考慮したときに、がんサロンの司会が考えるべきことは「どうすれば、この参加者一人ひとりに『この場所は自分のために開かれた場所なんだ』と感じてもらえるか」である。一人ひとりに話を振りながら、それぞれの語りたいポイント、認めて欲しい点などを探りながら、がんサロンの場が心地よく流れるように会話や環境をマネジメントする必要がある。
その視点に立ったときに、司会が留意すべきは「単に一人ひとりに話題を振って、話を促すだけでは心地よい場はつくれない」という事実である。人によっては言葉がうまく紡げなかったり、特定のテーマに対して反発を抱く方がいたりなど様々である。それでもなお、「参加してよかった」を持ち帰ってもらえるよう腐心しなければならない。
グループ・ファシリテーションをする上で、司会は「ファシリテート」の真なる意味を知っておく必要がある。日本語では「促進する」ととらえられがちだが、これを英英辞典で調べると「make it easy」と出てくる。つまり、ファシリテートする、というのは「司会が参加者の話を促す」のではなく「参加者が自然と言葉を出しやすくなるように、一人ひとりが『ここに居ていいんだ』と感じられる場を作る」ことなのだ。主語が違うのである。
グループ・ファシリテーションの技術や心がけは、管理職以上にとっては必須ともいえる重要なスキルであるが、体系だって書かれた書籍や研修は少なく、指導ノウハウも明文化されていない。今後、専門職の実践などをもとに、グループ・ファシリテーションを言語化して進めていくことが求められる。
※今回のファシリテート=make it easyの話題は、監修の福島さんがその指導者から教わったエピソードをもとにしています。
監修:福島沙紀(臨床心理士・公認心理師)
西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[「心地よい場」のつくり方]