日本においても、オープンサイエンス政策が実体を伴いつつある。
2021年3月に閣議決定された第6期科学技術・イノベーション基本計画において、「機関リポジトリを有するすべての大学等において、2025年までに、データポリシーの策定率が100%になる」「公募型の研究資金の新規公募分において、2023年度までに、データマネジメントプラン(DMP)及びこれと連動したメタデータの付与を行う仕組みの導入率が100%になる」という2つの数値目標が掲げられた。
さらに2023年5月に日本で開催されたG7サミットでは、「公的資金による学術出版物及び科学データへの即時のオープンで公共的なアクセスの支援」がG7科学技術大臣コミュニケに盛り込まれた。これを受けて、翌6月に閣議決定された日本の統合イノベーション戦略2023では、オープンサイエンスの中心的内容である「公的資金による研究データの管理・利活用の推進」に加え、「我が国の競争的研究費制度における2025年度新規公募分からの学術論文等の即時オープンアクセス(OA)の実現」への言及が初めてなされた。この実現には、「機関リポジトリを通じた即時OA」が想定されている。
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さて、ここまで読んでこられた読者は、「訳がわからない」「意味が不明」「内容が技術的すぎる」といった感想を抱き、今後、この連載を読むことを心の中で放棄されたかもしれない。
それも無理はない。これらの目標や施策はどれも、表面的に形を取り繕っているだけで、オープンサイエンスという政策目標達成のために、これらが最善の策なのかについて十分に考え抜かれたものになっていないのである。「データポリシー」「DMP」「機関リポジトリを通じた即時OA」など、どれも何のために必要なのかあいまいであるから、これに対応する大学側に事務負担ばかりを強いて、国の研究力低下という、本来の政策意図と真逆の効果をまねいているとすら言える。
オープンサイエンスは、大学等学術機関において生み出される研究成果をインターネット上に共有・公開することを意図している。これをうまく運用すれば、学術や産業等における学術コンテンツの利用が拡大し、研究のブレークスルーやイノベーションが期待できる。誰もが論文等の研究成果に自由にアクセスできるようになることで、いわゆる研究機関以外の一般社会においても、研究活動が展開される可能性が生まれる。
そのような需要はないと思われるかもしれないが、オープンサイエンスの走りとも言える、米国国立衛生研究所(NIH)の運営する生命科学系論文データベース「PubMed」を思い浮かべてほしい。医学や医療に関わる多くの人々が便利に参照しているのではないか?
しかし、繰り返しになるが、オープンサイエンスの恩恵を受けられるのは、それを合目的的に展開した場合である。次回以降は、オープンサイエンスの様々な側面を紹介しながら、その推進方策について考えていきたい。
船守美穂(国立情報学研究所情報社会相関研究系准教授)[オープンサイエンス][研究成果の公開][PubMed]