地域医療を志す医師がもう一歩深く地域に関わりたいと思ったとき、まず地域を「みる」とはどういうことなのか、考えてみる必要がある。
地域をみる方法には様々なものがあるが、1つの方略として地域志向性プライマリ・ケア(community-oriented primary care:COPC)がある。これは地域の健康問題を評価・診断・介入していくプロセスで、コミュニティの特徴およびそのコミュニティの健康問題を同定し、介入方法を検討し実行し、その介入について評価するものだ。コミュニティを巻き込むことを中心に据えながら、これらのプロセスをPDCAサイクルのように回していくこの方法は、医師が患者を診ることと似ている。つまり、医師の多くが患者を診察する際の診療録に用いるSOAPモデル(主観-客観-評価-計画)と類似していると感じる。初めてこのモデルを知ったとき、私は医師5年目だった。家庭医療の専門研修中、地域をみるとはどういうことかわからなかった自分にとって、患者を診療することと重なり、腑に落ちたことを覚えている。
ただ、このCOPCを実践する中で疑問として生じたことは、視点が問題解決型になりやすいということだ。医師はその研修の中で、PBL(プロブレム・ベースド・ラーニング)を実践する。そのため、物事の課題を探し分析することには慣れているが、強みを見出すことに対しては経験が少ない。
地域コミュニティは様々な人が暮らし行き交う集合体であり、そこには強みも課題もあり、また時代や見方によっても変化していく。外側から人の営みをアセスメントし課題を見つけるやり方は、時に乱暴で、コミュニティへの敬意が失われやすい。
大切なのは、医師である自分が、地域とどのように関わっているかという意識を持つことだ。外側から俯瞰してみたり、時に巻き込まれ、内側に入り込んでみたり。みることは、決して1つのやり方だけではないはずだ。たとえば、フィールドワークを行うこと、文化人類学的なアプローチから暮らしをみることも、1つだろう。医師がその専門性からみる行為だけでなく、様々な視点を身につけることで、地域の様子がより浮かび上がり、課題だけではなく強みにも目を向けられるようになると思う。
思えば、「みる」という日本語には、たくさんの漢字が当てられている。「見る」「視る」「観る」「診る」「看る」─いま、医師として、住民として、1人の人間として、自分がしようとしている「みる」は、一体どれなのだろうか。地域医療に関わるとき、自らの視点に自覚的であることを忘れないようにしたい。
坂井雄貴(ほっちのロッヂの診療所院長)[地域医療][コミュニティドクター][地域診断]