先日、小学1年生が給食で出されたウズラの卵をのどに詰まらせて死亡する事例が発生し、大きく報道されました。
ウズラの卵は吸い込んで気道をふさぐ場合があり、以前から小児科学会等で窒息リスクが指摘されてきました。窒息しやすい食材の特徴として、弾力がある、つるっとしている、粘着性が高い、丸い、固い、が挙げられますが、ウズラの卵は「丸く」て「つるっとしている」という2つの特徴を満たしています。
以前から注意喚起されてきた食材ということもあり、学校側の対応は比較的速やかで、多くの学校がウズラの卵の提供を控えるという対応にふみ切りました。
これに対して、「なんでも中止するのでは子どもにとっても学習にならない」という意見がSNSやウェブサイトのコメント欄に多く見られました。
確かに事故を防ぐために学習は大切です。子どもは小さなケガを繰り返しながら学習し、大きなケガに至らない術を学ぶものです。ただ、気道異物は致命的な転帰となりえます。ヒヤリとした経験が学びにつながるには、あまりにリスクが高く、「よい学習の場」ではありません。窒息してから蘇生できる猶予は9分間しかなく、亡くなる例も少なくない気道異物の事故は、やはり未然に防ぐしかないのです。
「家庭で食べ方の教育が不十分だからでは」という意見もありました。学童では早食いやふざけて食べているときに窒息する事例も報告されています。「遊びながら食べない」「慌てず食べることに集中する」「口の中に食べ物があるときはしゃべらない」等の食育は、もちろん事故予防としても有効です。一方、ウズラの卵の窒息リスクは吐き出す力が大人ほど強くない小児では依然高く、家庭で教えていても起こる可能性があります。
このようなことから、私自身は、学校給食でいったんウズラの卵を除去した対応は納得できるものと考えます。なお、丸くつるっとした食品の窒息リスクを下げる方法としては、除去以外に、「4等分にする」など調理の工夫も効果的ですが、ウズラの卵に関しては4等分すると形が崩れてしまい、現実的ではありません。
では、とにかく除去すればそれで問題は解決するのでしょうか。ウズラの卵は小さいながらも栄養価が高く、水煮にした場合の可食部100g当たりに含まれる鉄分は2.8mgで鶏卵(1.7mg)の1.6倍、亜鉛は1.8mgで鶏卵(1.2mg)の1.5倍、ビタミンB12に至っては3.3μgと鶏卵(0.9μg)の3.6倍です。ウズラの卵を給食に取り入れることで、栄養バランスの取れた給食を提供しやすくなるメリットがあります。
したがって、ウズラの卵を除去する場合、それと並行して何年生まで除去が妥当なのか、という疑問にも応えないといけません。現時点でまだ明確な指針は出ていませんが、識者の中には「乳歯が生え変わる低学年のうちはリスクが高いから避け、高学年で出すのはどうか」という提案もみられます。具体的でわかりやすい案だと私も思います。豆類の摂取を控える年齢が5歳以下になったときと同様に、小児科関連の学会と消費者庁が協力し、およその指針等が出せると、現場も安心して対策が取れるのではと考えています。
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[気道異物][食育]