ある技術が社会に受け入れられている程度を「社会受容性」と呼びます。最近、医療においても社会受容性が重要であると痛感しました。社会受容性は自己決定に大きな影響を及ぼします。以下、脳死下臓器移植に注目してご紹介します。
世界保健機関の憲章によると、最高水準の健康を享有することは万人が有する基本的権利とされています。したがって、臓器移植が唯一の治療法である患者に対しては移植医療にアクセスする手段を確保する必要があります。
臓器の移植に関する法律によると、①本人が臓器提供の意思を書面で表示しており、さらに家族が拒まないとき、又は家族がいないとき、②臓器提供の意思表示が不明な場合で、かつ、家族が書面で臓器の提供に同意したとき、に移植術に用いるため脳死と判定された死体から臓器を摘出することができます。このように、本人の生前における意思が優先されることはもちろん、家族の意思が決定に大きく影響します。
以下、心臓移植を例にとって説明します。2023年2月時点での移植希望登録者897人に対して、心臓移植の実施数は2023年で115件(全脳死下臓器提供者は132人)でした。需要に対して十分な臓器移植が行われていないことがわかります。人口100万人当たりの臓器提供者数を比較すると、スペイン46.03、米国44.50、英国21.08、韓国7.88(2022年)に対し、日本は0.88と圧倒的に少ない状況です。この原因として、諸外国との宗教的・文化的背景の相違があるものの、わが国における脳死下臓器提供の社会受容性の低さがあると思います。
内閣府が2013年に行った臓器移植に関する世論調査では、「家族が臓器提供の意思表示をしなかったとき、どうするか?」との問いに対して、「承諾する」と答えたのは38.6%で、臓器提供に関する意思表示をしている人は12.6%でした。
2021年に行われた同様の調査では、それぞれ38.7%と11.2%で、8年前の調査と同様の割合でした。このように、医療現場においては移植医療の導入が進んでいるにもかかわらず、社会受容性はあまり変わらないようです。さらに、臓器提供の意思を記入しない理由として、「臓器提供に不安感がある」と答えた人が34.3%、「臓器提供に抵抗感がある」が27.1%でした。
つまり、国民の約3割に不安感や抵抗感があるので、社会受容性を向上させる必要があります。専門性が高い内容なので、一般の人にはとっつきにくいかもしれませんが、これらの不安感や抵抗感を払拭すべく広報・啓発活動を行う必要があると思います。少なくとも、中学校や高校などの教育現場で脳死や臓器移植について情報提供を行い、自分の意思が明確にできるような準備が必要です。
このような社会受容性は、自己決定のプロセスに大きく影響を及ぼすと考えます。社会受容性が上がれば、臓器移植の実施数も増えると思います。