先日、横浜市の消防が救急搬送中に道を間違え、病院到着が13分遅れたという事案が報道されていた。院内でECMOを導入し、心臓カテーテル治療を行うのだとすれば、13分の遅れはそれなりに意味を持つ。一方、二次救命処置を継続するのみということであれば、病院到着の遅れがおよぼす影響は乏しい。ただ、こうして結果論的に問題の有無を検討するのはややナンセンスで、状況が違えば治療経過に直結するかもしれないことであり、再発予防の徹底は必要である。
この問題を考えた時、13分という時間の重みについては、もう一度国全体でよく検討しなくてはならない。「令和5年版 救急・救助の現況」で、2022年の救急業務の状況が公表されているが、救急出動件数(消防防災ヘリコプターを含む)は723万2118件で、前年から103万6049件増えており、搬送人員も621万9299人で、前年から72万5641人増となっている。また救急搬送にかかる時間では、現場到着所要時間は全国平均で約10.3分、病院収容所要時間は全国平均約47.2分となっている。なお、前年はそれぞれ9.4分、42.8分であった。15年前の2007年に着目すると、現場到着までの時間は7.0分、病院収容所要時間は33.4分であったから、まさに現場到着まで3.4分、病院収容までは13.8分延長していることになる。高齢化に伴い多様な救急需要が増えていることや、新興感染症の流行による影響もあろうが、毎年現場到着所要時間と病院収容所要時間は延長してきており、由々しき問題である。
横浜市の問題に限らず、消防が搬送経路の誤り等で搬送時間が延長した際には、報道においてその過誤に焦点が当たりがちである。当然、避けるべきことであり、何らか改善できる方策があるなら、その点は修正が必要である。その上で、搬送時間が延長しているという点もクロースアップすべきで、13分の遅れに重みを感じるのであれば、年々悪化している状況を無策で放っておくわけにはいかない。誰の責任かと考えた時に、咎める相手が特定できるわけではなく、国民全体に責任が返ってくることではある。このため、なかなか大手メディアから発信することも困難なのかもしれないが、ここは目を背けず、この状況を打開する方法を前向きに検討し、上手に情報発信することを願いたい。
医療機関としてはスムーズな応需ができるよう、自施設での努力だけでなく、前稿で扱った下り搬送体制の整備を含め、地域内での連携を強化していく必要がある。患者サイドにも、救急車以外の受診手段の選択を促すなど、愚直に理解を求めていかなければならないだろう。
薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[病院収容所要時間]