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【識者の眼】「『関心領域』の変遷」関なおみ

No.5226 (2024年06月22日発行) P.66

関なおみ (東京都特別区保健所参事、医師)

登録日: 2024-06-06

最終更新日: 2024-06-06

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東京都特別区において、区民が区政に対して意見を述べたい(公式には「区政参画の機会を持ちたい」という)と思った場合には、電話や窓口への来所、電子メール、「区長への手紙」としての投稿、「区民と区長との懇談会」への出席、「区民意見公募手続(パブリックコメント)」への意見提出、「区政に関する世論調査」への回答等、様々な手段が用意されている。各区ではこれらを「区民の声」として取りまとめていて、内容により、「問い合わせ」「意見・要望(苦情・不満を含む)」「情報提供」「お礼」にわけ、その件数等を公開しているところが多い。

筆者の所属している区において、感染症対策や予防接種事業は施策分野として健康増進事業やがん検診などと一緒にされてざくっと「健康づくり」としてまとめられている。この「健康づくり」分野に対する「意見・要望」件数の経年変化を見てみると、2018年度には17位(1486件中34件)、2019年度には13位(1600件中50件)だったところ、COVID-19が国内発生・流行を生じた2020年度には突如1位(2726件中282件)に躍り出て、2021年までその座をキープした後(2191件中448件)、オミクロン変異株が主流となった2022年度には6位(2290件中77件)に転落した。

2021、22年度は「健康づくり」だけでなく、「学校教育」「保育サービス」等の分野でもCOVID-19に関連した「意見・要望」が多く受けつけられていたため、既感染者数の増大とともに5類移行を目途として徐々に社会経済活動が再開する中、要望等が各施策分野へ分散したという見方もあるが、この件数の変動はかなり極端だ。なお、生活により直結しているからか、「道路」や「公園」「ごみ・リサイクル」「生活保護・支援」「学校教育」に関する要望は安定して毎年10位以内に必ず入っている。

もちろん苦情や不満は少ないに越したことはないが、今後いつ到来するともわからない感染症危機に備え続けるためには、感染症への関心は持ち続けてもらいたいものである。人間は、いくら深刻でも自分の利害に関わらない事象に対しては、なかなか向き合おうとしないことが、この映画1)だけでなく、数々の史実の中でも証明されているが。

【文献】

1)関心領域 THE ZONE OF INTEREST(2023)公式サイト.
https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/

関なおみ(東京都特別区保健所参事、医師)[区民の声][感染症危機管理]

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