従来の点頭てんかんは,てんかん性スパズム(epileptic spasms:ES),発作間欠期脳波でヒプスアリスミア,全般性発達遅延や退行を満たすものとされた。国際てんかん連盟の2022年の改訂では,乳児てんかん性スパズム症候群(infantile epileptic spasms syndrome:IESS)という概念が提唱された。これは発作間欠期脳波でヒプスアリスミアや退行の有無にかかわらずESを認めた場合に診断される1)。IESSは10万出生当たり30例の頻度で発症し,基礎疾患は多彩である1)。一般的にIESSは難治性てんかんであり,神経学的予後が不良である。
生後1~24カ月時に,寝起きに頭部前屈と四肢を屈曲や伸展させるESの群発で発症し,しばしばシリーズ形成する。開眼,眼球偏位を伴うことが多い。発作間欠期脳波でヒプスアリスミアの有無,全般性発達遅延や退行(頸定や寝返りの消失,追視や笑顔の消失,機嫌が常時悪い)の有無を確認する。可能であれば胸鎖乳突筋や三角筋の筋電図を同時記録した発作時脳波で,ESを評価することが望ましい。
IESSは早期に治療することが望ましい。我々の施設ではESを認めた場合,vitamin B6大量療法を1週間程度行う。この間に早期入院とし,頭部MRI,血液検査,髄液検査,脳波の評価を行う。vitamin B6が無効な場合には,低用量副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)療法またはビガバトリン内服を行う。ACTH療法の副作用として,高血圧,徐脈,不機嫌,筋緊張亢進,頭蓋内出血,易感染等を認める場合があり,心電図のモニタリング,治療前に四肢体幹の筋緊張亢進の有無,脳萎縮に伴う頭蓋内出血のリスク,免疫機能,生ワクチン接種歴を確認する。ビガバトリンは25~150mg/kg/日から開始し,発作消失が得られるまで最大150mg/kg/日まで漸増していく。ビガバトリンの副作用として眠気,哺乳力低下,口腔内分泌物増多に注意する。また不可逆的視野狭窄を約30%で認めるため,ビガバトリン投与前と継続中は定期的に眼科で網膜電図検査を行う。
基礎疾患に結節性硬化症を認める場合には,ビガバトリンを第一選択とする。無効時にはACTH療法を検討するが,治療前に頭部MRIで上衣下巨細胞性星細胞腫,心エコーで心横紋筋腫の有無を確認し,ACTH療法中の腫瘍増大リスクをふまえて治療方針を決定する。ACTH療法やビガバトリンが無効な場合,バルプロ酸ナトリウム,ゾニサミドを考慮する。
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