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【識者の眼】「5歳児健診の重要性と課題」坂本昌彦

No.5229 (2024年07月13日発行) P.66

坂本昌彦 (佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)

登録日: 2024-06-24

最終更新日: 2024-06-24

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近年、乳幼児健診において5歳児健診への関心が高まっています。日本では、3歳児健診に続いて行われるのが小学校入学前の就学前健診であり、これらの健診はほとんどの子どもが受診しています。一方、5歳児健診は実施している自治体も少ないのが現状です。医療従事者の間でさえ、5歳児健診の重要性が十分に認識されているとは言えません。そこで今回は5歳児健診の重要性についてまとめてみました。

5歳という年齢は、言語理解や社会性が発達する時期であり、発達障害が顕在化しやすい時期と言えます。この時期に健診を行うことで、子どもの特性を早期に発見し、適切な支援につなげることが可能です。5歳児健診が推奨されている理由はこの点にあります。

では、就学前健診と5歳児健診の違いは何でしょうか。就学前健診は、年長児の秋から冬にかけて集団で行われ、小学校入学準備の側面を強く持っています。ただ、どちらかというと身体的評価が中心で、個々の発達を詳しく評価するのには時間的にも限界があります。一方、5歳児健診は5歳の誕生日を迎えた子どもを対象に年中児または年長児の初めに行われます。必ずしも全員が対象ではなく、発達に懸念のある子どもを対象とし、言語理解や指示への反応を細かく確認したり、社会的な支援が必要なのかを判断したりする場です。

5歳児健診では、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)、学習障害、場面緘黙などが発見されることがあります。場面緘黙は、特定の場所や状況で話すことができなくなる状態であり、たとえば家庭では普通に話せるのに、学校では緊張して話せなくなる子どもが該当します。これらの症状は不登校や心身症になりやすいため、早期発見が重要です。また、最近増加しているゲームやネット依存についても、小学校入学後に深刻化する可能性があるため、入学前から対処方法を相談することが重要です。5歳児健診は、保護者が子どもの特性に気づく機会となり、専門機関での支援につなげるきっかけともなります。

しかしながら、5歳児健診にはいくつかの課題が存在します。まず発達障害が見つかった子どもをフォローする専門医療機関が少なく、受診までの待機時間が長くなる傾向があります。また、ペアレントトレーニングや療育教室は都市部では充実していますが、地方では数が少なく、対応も自治体によって異なります。最大の課題は、この健診の重要性が社会に十分に認識されておらず、取り組む自治体が少ない点です。財政的な問題もあり、現在国からの補助は少なく、自治体の補助が必要ですが、5歳児健診の重要性が広く伝わっていないため、普及が進んでいません。

このように、5歳児健診には重要な意義がありますが、いまだ社会に浸透していない現状があります。これらの課題が共有され、理解が深まることを願っています。

坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[発達障害][ゲーム・ネット依存][自治体]

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