〔要旨〕最も確実で,患者に迷惑をかけにくいアセトアミノフェン(A)使用量削減方法は,鎮痛目的のAの代替薬として塗布薬,貼付薬(湿布)およびノイロトロピンⓇ錠(N)を使用することである。Aは安全性が高い薬であるが,Nのほうがさらに安全性が高い。Aは侵害受容性疼痛(NoP)の治療薬であり,Nは神経障害性疼痛(NP)の治療薬である。痛み刺激が継続すると脳が過敏になり,過敏になった脳そのものがNPを引き起こすため,NoP単独は少なく,多くはNoPとNPの混合痛である。そのため,AをNに変更することは妥当である。変形性膝関節症と急性腰痛症ではAには鎮痛効果がないため,Nを優先使用することは妥当である。
現在,アセトアミノフェン(A)が不足している。A節約目的で妊娠中期の妊婦に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が処方され,論争が起きた。今後,インフルエンザ患者の増加等によりAの不足がさらに深刻になる危険性が高いため,Aの使用量を減らす必要がある。最も確実で,患者に迷惑をかけにくいAの使用量削減方法は,鎮痛目的のAの代替薬として,湿布等の外用薬やノイロトロピン®錠(N)を使用することである。ただし,それらには解熱作用はないため,解熱目的のAの代替薬にはならない。AよりもNSAIDsのほうが鎮痛作用や解熱作用は強いが,消化管障害,脳卒中,心筋梗塞,腎障害等の副作用のリスクがあり,重篤な腎障害時には使用禁忌である(推定Ccr 50mL/分以下は相対的禁忌,30mL/分以下は絶対的禁忌)。
鎮痛目的で使用中のAを,塗布薬や貼付薬(湿布)に変更することを提案する。5年以上継続使用すると消化管合併症,腎障害,心筋梗塞の危険性が経口NSAIDsと同程度という報告はあるが,短期間であれば安全性が高い。後述するNとの併用も可能である。貼付薬(湿布)には冷却作用はないため,外傷時に冷却が必要な場合には,保冷剤などを使用する必要がある。
Aの安全な削減方法として,鎮痛目的のAをNに変更することも提案する。鎮痛目的で使用中のAをNに変更して,痛みが軽減あるいは不変であればNを継続し,痛みが悪化すれば元のAに戻すという方法である。
Aは安全性の高い鎮痛薬であるが,肝障害,腎障害1),発がん性2),スティーブンス・ジョンソン症候群,2g以上使用時の消化管合併症3)等の副作用がある。Nの最大の特徴は副作用の少なさ,軽さである。二重盲検法による臨床研究では,有意差はないが偽薬よりも副作用が少ない報告4)や,臨床用量を超えた使用量ではあるが動物実験ではNSAIDs潰瘍を減らす報告5)さえある。眠気を起こさないため,自動車の運転時にも使用可能である。筆者の経験では,Nは最も副作用が少ない一群に含まれる。ただし,Aは全世界で大量に使用されているが,Nは日本と中華人民共和国のみで使われているため,副作用報告が少ないだけかもしれない。
Aは侵害受容性疼痛(NoP)の治療薬であり,Nは神経障害性疼痛(NP)の治療薬である。そのため,AをNに変更することは妥当ではないという意見が出るかもしれない。AをNに変更して痛みが悪化しなければ,臨床の観点では問題がないという考え方もある。Aが不足している現状では,Nへの変更は特に有用である。AをNに変更することが妥当な根拠は後述する。
血糖降下薬を使用して,1回もその効果を確認しなければ(1回も血液検査をしなければ),医療過誤をはるかに超えて,偽医者の疑惑を持たれる。しかし,鎮痛目的の薬を使用後,その効果(鎮痛効果)を1回も確認しないことはよくある。一定期間経過後,鎮痛効果を確認することが必要であり,無効あるいは鎮痛効果を確認しないままの継続投与は不適切である。
日本では,腎機能正常時には,Aの上限量は1500mgであったが2011年から4000mgに増量になった。腎障害時の上限量は2400mgまたは1800mgである。国際疼痛学会はNPの薬物治療において,少量から2つの例外(副作用で増量不能,満足できる鎮痛の達成)を除いて上限量までの漸増を推奨している6)。逆に言うと,上限量を使用しない限り無効とはみなせない。筆者はNoPの治療薬であるAにも適用すべきと考える。
残り3,703文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する