監修: | 飯田宏樹(岐阜大学 名誉教授/社会医療法人厚生会中部国際医療センター麻酔・疼痛・侵襲制御センター 統括センター長) |
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編集: | 川口昌彦(奈良県立医科大学麻酔科学教室 教授) |
判型: | B6判 |
頁数: | 412頁 |
装丁: | 2色部分カラー |
発行日: | 2022年06月07日 |
ISBN: | 978-4-7849-5939-6 |
版数: | 第1版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます)。 |
●神経麻酔はあらゆる領域の麻酔の原点であり、近年の高齢化によりその領域は著しく拡大しています。
●本書では、神経麻酔と神経集中治療に関する基礎知識から一般診療に必要な内容まで、要点を体系的に網羅しています。患者さんの機能的予後、生活の質の改善、満足度向上に寄与する1冊です。
●神経麻酔領域での安全な周術期管理を目指すとともに、あらゆる臨床の現場で役立つ中枢神経系の評価に必要な知識を明確に記載しています。
●神経麻酔や神経集中治療を専門とする、あるいは目指している医師、看護師、薬剤師、臨床工学技士、臨床検査技師だけでなく、他領域の専門分野の先生方にもおすすめです。
●84名の先生方にご執筆いただきました。
執筆者一覧(掲載順)
松田良介/重松英樹/本山 靖/川崎佐智子/山下敦生/松本美志也/山下 理/後藤安宣/斎藤淳一/櫛方哲也/武田吉正/木下 勉/石田裕介/内野博之/川股知之/堀耕太郎/森 隆/田辺久美子/合谷木徹/内田洋介/森本裕二/山口重樹/中川一郎/竹島靖浩/位田みつる/前川謙悟/讃岐美智義/北島 治/鈴木孝浩/前田 剛/高谷恒範/林 浩伸/石田和慶/吉谷健司/阪田耕治/飯田宏樹/堀内俊孝/岡田真行/川前金幸/紙谷義孝/杉山由紀/川真田樹人/鬼頭和裕/植村景子/福岡尚和/太田卓尚/山内正憲/宮脇 宏/立花俊祐/山蔭道明/茶木友浩/鎌田ことえ/金子秀一/角本眞一/田中 聡/一ノ宮大雅/原 哲也/水田幸恵/山浦 健/福島 豊/北川裕利/和泉俊輔/垣花 学/髙岡誠司/大下健輔/平木照之/河野 崇/坪川恒久/小川裕貴/永井貴子/黒田泰弘/櫻井 淳/星山栄成/鈴木秀鷹/江川悟史/井上聡己/河北賢哉/中川 俊/井上茂亮/中西信人/小谷穣治/永井義浩/天谷文昌
診療科: | 麻酔・ペインクリニック | |
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麻酔・ペインクリニック |
第1章 神経麻酔・集中治療に必要な解剖学
1 脳・脳幹の解剖
2 脊髄・脊椎の解剖
3 脳神経の解剖(Ⅰ〜Ⅻ)
4 末梢神経・筋肉の解剖(神経モニターに必要な知識)
第2章 神経麻酔・集中治療に必要な生理学
1 脳脊髄の循環代謝
2 頭蓋内圧の基礎と調節
3 脳浮腫・血液脳関門
4 神経内分泌
5 低体温
6 脳虚血の機序
7 痛みの機序
8 全身麻酔・局所麻酔の機序
第3章 神経麻酔・集中治療に必要な薬理学
1 麻酔薬と脳循環/代謝・頭蓋内圧
2 脳保護に関連する薬剤
3 脳浮腫治療の薬剤
4 麻酔薬の神経毒性
5 睡眠と関連薬剤
6 痛みと治療薬
第4章 脳神経麻酔での術前評価
1 神経学的評価法
2 画像診断の基本(脳疾患)
3 画像診断の基本(脊髄疾患)
4 フレイルの評価法
5 栄養評価法
6 認知機能評価
7 プレハビリテーション
第5章 神経系モニタリング
1 麻酔深度モニター
2 筋弛緩モニター
3 頭蓋内圧(ICP)
4 脳波(頭皮・頭蓋内)
5 誘発電位
6 経頭蓋ドプラと経頭蓋カラーフローイメージング
7 近赤外線脳酸素モニター
8 Wake up test
第6章 脳神経麻酔の周術期管理の基本
1 術中体位と注意点
2 輸液管理(総論)
3 頭蓋内圧・頭蓋内圧亢進症の管理
4 頭皮ブロック
5 術後疼痛管理(薬物療法)
6 坐位の手術(管理法)
7 覚醒下開頭手術の麻酔管理
8 神経モニタリング時の麻酔法
第7章 脳神経麻酔での主な疾患と管理法
1 脳動脈瘤手術(SAH、未破裂)
2 脳動静脈奇形
3 頸動脈内膜剝離術
4 もやもや病手術
5 テント上脳腫瘍手術
6 テント下脳腫瘍手術
7 下垂体部手術
8 頭蓋内出血
9 てんかん手術
10 定位脳手術
11 血管内治療(脳動脈瘤、頸動脈狭窄症)
12 脊椎手術の麻酔
13 脊髄腫瘍
14 小児脊椎脊髄手術
15 電気けいれん療法の麻酔
16 神経筋疾患の麻酔
17 MRI検査の麻酔
18 大動脈弓部手術での脳保護
19 胸腹部大動脈瘤手術での脊髄保護
第8章 脳神経麻酔での合併症と対策
1 尿崩症と電解質異常
2 痙攣
3 術後悪心・嘔吐
4 周術期脳梗塞
5 術後せん妄
6 術後認知機能障害
7 術中覚醒記憶
8 周術期視機能障害
9 周術期末梢神経障害
10 遷延性術後痛
第9章 神経集中治療が必要な疾患と管理法
1 外傷性脳損傷
2 蘇生後脳症(心停止後脳障害)
3 けいれん性てんかん重積状態
4 非けいれん性てんかん重積状態
5 脳死下臓器提供も見据えた状態
6 小児髄膜炎と脳症
7 敗血症性脳症
8 可逆性後白質脳症症候群(PRES)
9 急性期リハビリテーション
10 集中治療後症候群(PICS)
11 脳神経疾患における終末期医療
監修者序文
麻酔の目標は周術期の患者を安全に管理し、より良い手術環境を提供することである。このために種々の薬物を用いて全身麻酔の3要素である鎮静・鎮痛・不動化を維持する。全身麻酔薬は中枢神経系を抑制し、その作用を発揮する。麻酔管理のサブスペシャリティには、心臓血管外科・呼吸器外科・消化器外科・脳神経外科・整形外科・産科婦人科などがあるが、神経麻酔はあらゆる領域の麻酔の原点である。脳や脊髄への影響を無視した麻酔管理など存在しえない。このことを背景に、本書は周術期の神経系の管理をまとめるものとして、神経麻酔と神経集中治療に関して基礎的な知識から実際の臨床での内容までを対象とした。具体的には、解剖学・生理学・薬理学の基本的な情報から始まり、術前評価・術中モニタリングや各種疾患の麻酔管理、合併症対策、術後の神経集中治療に至るまでの範疇の各種項目における専門家の先生方に要点を簡潔にまとめていただいた。各項目において一般診療で必要な情報がコンパクトに盛り込まれており、非常に頭を整理しやすい構成になっていると思われる。また、臨床上の疑問やトピックスが「MEMO」という形で情報提供されている。神経麻酔領域での安全な周術期管理を目指すとともに、あらゆる臨床の現場で役立つ中枢神経系の評価に必要な知識が網羅され、明確に記載されたものが完成したと考えている。
本書は、神経麻酔や神経集中治療を専門とする、あるいは目指している先生方だけでなく、他領域の専門分野の先生方にも手元に置いていただき、神経麻酔科学の概略と展望を理解する際に、ご利用いただけると良いと思う次第である。
最後に、この企画内容にご同意をいただき、執筆に携わってくださった著者の先生方、ならびに企画にご賛同いただいた日本医事新報社と担当の長沢雅氏には改めてお礼を申し上げたい。
2022年5月
岐阜大学 名誉教授/社会医療法人厚生会中部国際医療センター
麻酔・疼痛・侵襲制御センター 統括センター長
飯田宏樹
編者序文
このたび、『神経麻酔と神経集中治療の基礎と実践』を日本医事新報社より発刊させていただきました。神経麻酔・集中治療の領域は、古くは脳外科手術の麻酔として理解されることが多かったですが、近年の高齢化によりその領域は著しく拡大しています。基本は、術後や集中治療後の神経障害を予防し、患者さんの生活機能回復と生活の質を維持することを目的としています。
脳外科手術では、意識や運動機能だけでなく、感覚機能、視覚機能、聴覚機能、言語機能など様々な神経機能を、術式に応じて術中神経モニタリングを実施し、障害を予防する必要があります。脳圧軽減のための麻酔薬や輸液の選択、呼吸管理のほか、神経モニタリングを実施できる麻酔薬の選択や異常発生時の対応も実践する必要があります。神経モニタリング時の麻酔管理は神経機能温存にとって極めて重要です。覚醒下開頭手術などは特殊な手術になりますが、頭皮ブロックや気道管理、術中モニタリングなどの知識や技術が必要になります。
脊椎脊髄手術では、気道管理のほか、術中神経モニタリング、術後視機能障害や体位による神経障害などの合併症対策も重要です。神経モニタリングにおいては運動誘発電位、体性感覚誘発電位、脊髄誘発電位などmultimodalなモニタリングが推奨されており、その理解が必要となります。多職種でのチーム医療の重要性が指摘されています。
脳や脊髄の手術以外でも、周術期の脳梗塞、せん妄、認知機能障害、末梢神経障害などは発生し、その対策が必要となります。特に心臓血管外科手術や高齢者の麻酔ではその発生率は高く、術前・術中・術後の管理が重要になります。大動脈弓部手術での脳保護や胸腹部大動脈瘤手術での脊髄保護は重要な課題です。また、高齢者における手術前の評価やプレハビリテーションなどの介入も重要な課題です。近年は、周術期の神経炎症により周術期神経認知障害が発生し、長期的な神経機能に影響を及ぼすことが指摘されています。
神経麻酔には痛みに関する内容も含まれ、痛みの機序や治療薬、術後遷延性疼痛への対応なども必要とされます。神経集中治療では、外傷性脳損傷、蘇生後脳症、てんかん重積状態、髄膜炎や脳症などの管理に加え、早期回復のための急性期リハビリテーションや集中治療後症候群(PICS)の予防に向けた対応も必要になります。
神経麻酔・集中治療は麻酔科関連のサブスペシャリティですが、すべての麻酔科医が習得すべき内容を多く含んでいます。また、近年は医師、看護師、薬剤師、臨床工学技士、臨床検査技師などの多職種での周術期管理の実践が求められています。本書が、神経麻酔・集中治療領域の基本情報を多職種で共有できる一助になればと思います。患者さんの機能的予後や生活の質の改善、満足度向上に寄与できればと思います。
最後に、本書出版の機会を与えていただいた日本医事新報社と、発刊に向けご尽力いただいた皆様に深く感謝いたします。
2022年5月
奈良県立医科大学麻酔科学教室 教授
川口昌彦