突然であるが、次の問題を解いてもらいたい。
75歳の女性。1カ月前に骨転移を伴う進行肺小細胞癌と診断された。薬物による抗癌治療などの積極的な治療は実施せず、家で穏やかに過ごしたいという本人の希望で在宅療養している。患者は月に2回の訪問診療を受け、癌性疼痛緩和目的で数種類の内服薬を服用している。独居だが自宅では自立的な生活を維持している。
本日、担当医が定期の訪問診療に訪れたところ患者から「市販のサプリメントを服用したい」と強い申し出があった。対応で誤っているのはどれか。
a 患者の思いを丁寧に聞く
b 医療チームで情報共有する。
c 費用負担について確認する。
d この患者への診療をさし控える。
e サプリメントに関する医療情報を収集する。
この問題、実は今年行われた第118回医師国家試験の1問である1)。しかも、研修医になるための最低限の知識を問う「必修問題」として出題されている。ちなみに答えは「d」である。この連載に目を通して頂いている方は迷うことなく正解したと思う。なお、某予備校のデータでは、受験生の正答率は100%だったとのことである。
しかし、患者からの声を聞くと、サプリメントに限らず鍼灸、アロマセラピー、ヨガなど医療機関で通常提供されていない施術・療法のことを質問すると、「私のことが信用できないのか」「もう、通院しなくてよい」と怒り出す医師が一定数いるという。また、頭ごなしに否定はしないものの、「どうぞ、ご自由に」「患者の自己責任で」と突き放す医師も多いようである。
冒頭で紹介した医師国家試験の問題について、視点を変えると選択肢の「d」以外は、医師が取るべき対応ということになるであろう。これまで過去の記事(No.5053)でも触れたが「健康被害」「経済被害」「機会損失」に留意しつつ、利用しようと考えた理由を丁寧に聞き取ることが重要と考える。がん患者の多くは不安や悩みを常に抱えている。患者を叱責したり、自己責任論を押しつけたりすることの弊害も忘れてはならない(No.5085)。
最後に私感を。筆者自身、サプリメントをはじめとした補完代替療法に関わりはじめて20年余りになる。当初は同僚から怪しい目でみられることがあったが、このような問題が医師国家試験に出題されるのを目にして感慨深いものがある。
【文献】
1)厚生労働省公式サイト:第118回医師国家試験問題および正答について.
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp240424-01.html
大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法(55)]