2010年の「早期からの緩和ケア」に関するランダム化比較試験1)の発表は、世界に衝撃を与えた。
Temelらによって計画されたこの研究では、進行再発肺がんと診断された151人が、診断後8週以内に緩和ケアの専門チームが介入を始める群と、主治医が必要としたときに適宜緩和ケアに紹介する通常ケア群とに振りわけられ、結果として介入群ではQOLが向上し、不安の減少や、生命予後の延長の可能性も示された。
その後、この早期からの緩和ケアモデルは、多くの追試が行われ、その統合された解析においてもQOL改善効果はあることが証明され、また生命予後も延長されるという報告も認められた2)。
これら研究の結果として、世界的に「早期からの緩和ケア」を実践していくことが臨床上の大きな命題となったが、一方で全患者に対して緩和ケアの専門チームが関わることがマンパワー的に厳しい現場がほとんどであり、実行可能性の低さが指摘され続けてきた。さらに、がん治療がこの10年間で大幅に進歩してきたことで、進行再発がんと診断されたとしても、そこから無症状で何年も生活が可能な人が多数を占めるようになってきた。その中で、「本当に全患者に診断後すぐから緩和ケアの専門チームが関わる意義があるのか?」と疑問視されるようにもなった。
そのため世界の研究者たちは「早期からの緩和ケアが必要なときに必要な人に届けられるようにしよう」と考えはじめ、様々なモデルを考え出していった。中でも「ステップ緩和ケア」と呼ばれるモデルが今年、JAMAに発表された3)。ランダム化比較試験により、2010年の早期からの緩和ケアモデルに劣らずQOLを維持できる効果が認められたというものである。このモデルでは、診断から4週以内に緩和ケアチームが初回の面談を行った後、治療の変更時または入院後にのみ面談を行い、6週間ごとに患者が記入するQOLスコアが低下したところから定期的な面談を行うようにするものだった。結果として、このモデルでも患者のQOLは低下することなく、緩和ケアのリソースは節約できたのだった。
「ステップ緩和ケアモデル」では、患者にとって重要なポイントで緩和ケアのリソースを集中させられることが示されたわけだが、これによって早期からの緩和ケアの普及に明るい未来が開けたかと言うと楽観はできない。Temelのモデルは2010年から24年のものに大幅にアップデートされたと言えるが、今回の「ステップ緩和ケアモデル」もやはり「研究用の」やり方である。これを臨床に落とし込んでいくためには、私たち現場の医療者のアレンジが必要であることは言うまでもない。
【文献】
1)Temel JS, et al:N Engl J Med. 2010;363(8):733-42.
2)Fulton JJ, et al:Palliat Med. 2019;33(2):123-34.
3)Temel JS, et al:JAMA. 2024;e2410398
西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[QOLの維持]