インフルエンザウイルスによる感染症で,流行がみられるのは主にA型とB型である。潜伏期間は1~4日(平均2日)で,典型例は突然の高熱,悪寒,倦怠感,筋肉痛などで発症し気道症状,時に消化器症状を伴う。2~4日程度で自然に解熱するが,2日前後で解熱した後に再発熱する二峰性の経過となる例もある。学校保健安全法では「発症した後五日を経過し,かつ,解熱した後二日(幼児にあつては,三日)を経過するまで」1)を出席停止期間としている。
症状,経過,流行状況などから疑うが,非典型例もあるため,感冒やCOVID-19などとの鑑別は臨床的には困難である。イムノクロマト法を用いた抗原迅速検査は5~15分程度で結果が得られる。発症早期,不適切な検体採取などによりウイルス量が不十分な場合,偽陰性となりうる。核酸増幅法は抗原迅速検査の1/1000のウイルス量でも検出可能だが,特殊な機器を必要とする。
通常は自然軽快するため,安静と対症療法が勧められる。症状発現から48時間以内に抗インフルエンザ薬の投与を開始すると,発熱期間を1~2日間短縮する効果がある。全患児に投与が必須ではないが,幼児や基礎疾患を有する児などのハイリスク群,入院症例,重症患者には投与が推奨される。これらに該当しなくても状況に応じて説明と同意の上で投与を検討する。
年齢,投与方法,既往歴などを考慮し薬剤を選択する。オセルタミビルは全年齢で投与可能である。吸入が実施可能であれば吸入粉末剤,12歳以上ではバロキサビル マルボキシル(以下,バロキサビル)内服も選択できる。内服や吸入が困難であれば経静脈的にペラミビルの投与を検討する。ラニナミビル吸入懸濁液はネブライザーを用いた吸入薬で,エアロゾルを発生する危険性があるため周囲への感染リスクに注意する。
バロキサビルはキャップ依存性エンドヌクレアーゼを阻害し,ノイラミニダーゼ阻害薬と異なる作用機序の薬剤として2018年に発売された。臨床的な有効性,罹病期間の短縮はオセルタミビルと同等で,ウイルス感染価を早期に大幅に低下させる。一方で,特に12歳未満で投与後,ウイルスにアミノ酸変異が高率に生じ,変異ウイルスでは罹病期間が延長しウイルス排泄が遷延する。2023年の日本感染症学会の提言では,12歳未満の小児に対するバロキサビルの投与については「慎重な投与適応判断が必要」2)とされている。
抗インフルエンザ薬投与後の異常行動の報告があるが,投薬の有無や種類にかかわらず異常行動が報告されている。事故の危険性があるため,インフルエンザ罹患時には異常行動の出現に注意する必要がある。
ワクチンは発病防止,入院率の低下,周囲への感染リスク低減などが期待され,流行前の接種が推奨される。わが国では2019~2020年シーズンまで冬から春にかけて流行がみられたが,2022年末からの流行は2023年春以降も完全には終息せず夏に再度増加した。今後の流行時期について注目していく必要がある。
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