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たんぽぽ先生の 在宅医療専門クリニック開業成功のための5箇条

No.5229 (2024年07月13日発行) P.38

永井康徳 (医療法人ゆうの森たんぽぽクリニック)

登録日: 2024-07-15

最終更新日: 2024-07-10

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  • 私は,介護保険制度が施行された2000年に,愛媛県で初となる外来を行わない在宅医療専門の診療所,たんぽぽクリニックを開業しました。開業して24年,この間に当院が支援して開業した医師は12名に及びます。しかし,経営が軌道に乗り,開業当初の理想通りに事業を拡大している人もいれば,実現できていない人もいます。その違い,原因はどこにあるのでしょう?

    「もし今,私がこれまでの経験を活かして,ゼロから在宅医療専門クリニックを開業するなら,何に注力するだろうか?」という視点で原因を探ってみたところ,経営が軌道に乗らず,理想通りにクリニック運営ができていない人たちに共通した5つの問題点が見えてきました。そこで,この5つの問題点とその解決策を「在宅医療専門クリニック開業成功のための5箇条」として紹介したいと思います。

    問題点1 開業したいクリニックのビジョンがあいまい

    開業準備を進める前に,まず決めておきたいのが,次の2つのビジョンです。

    ①地域の中で担いたい役割

    ②1人医師体制のクリニックにするのか,複数医師体制のクリニックにするのか

    理由は,これらによって事業運営や経営方針が大きく異なるからです。1人医師体制と複数医師体制は,一概にどちらの体制が良いとは言えず,開業医それぞれの考えによると思います。しかし,開業時に方針を決めずに,なんとなく患者が増えたから医師を追加採用しようとすると,めざすべき自院の姿がはっきりしないので,なかなか判断ができず,行き詰まりやすいのです。そのため,開業時に自院のスタイルと将来のビジョンを明確にすることが大切です。

    私は今開業する場合でも,迷わず複数医師体制をめざします。1人では24時間対応に限界がある上,私の理念である「自分がいなくなっても継続できる在宅医療を地域に提供すること」の実現が難しいからです。とはいえ,1人医師体制,複数医師体制のどちらでも,開業当初は 1人で診療を始めるということは共通しています。患者がまだ少ない開業当初から複数の医師を雇用すると,人件費ばかりかさみ,採算が取れないからです。1人医師体制の場合,一定の患者数を確保できる見通しが立てば,地域の他の医療機関と連携して,自院ではどうしても診療できないときの支援体制を構築していくことになるでしょう。これに対して,複数医師体制では,地域の在宅医療のニーズを見定めつつ,患者の増加に合わせて医師を増員し,疲弊しない24時間体制をめざすことになります。

    〈在宅クリニックの開業前に取り組むべきこと〉

    ①将来のビジョンと方針を設定する

    1人医師体制か複数医師体制か,地域でどのような役割を担いたいか,どのようなクリニックにするかなど,将来を見据えたクリニックの方針を決めます。

    ②近隣地域の需要を把握する

    人口動態や,開業予定地周辺の医療提供体制の調査に加え,連携先になりそうな近隣の病院や診療所,居宅介護支援事業所,訪問看護ステーション,地域包括支援センター等をリスト化し,移動距離や手段も確認します。調査を進めることで,地域で自院が担うべき役割が見えてきます。

    第1箇条
    地域で担いたい役割,1人医師体制なのか複数医師体制なのか,など,クリニックのビジョンを明確にすることから始めよう。

    問題点2 患者は何もしなくても自然に集まってくると思っている

    当院には,毎日のように新規患者が紹介されてきます。そのため,当院で働いていた医師たちの多くは,「患者は何もしなくても紹介されてくるもの」という間違った認識を持ってしまうようです。そして,開業して初めて「なぜ,うちには患者が紹介されないのか? たんぽぽクリニックとは何が違うのか?」と気づくようです。当院が毎日のように患者を紹介されるのには,それだけの理由と努力があるのです。

    在宅医療専門クリニックは,当たり前のことですが,どこからか紹介されないと患者は来ません。何の実績もない新規のクリニックなら,なおさらです。だからこそ,「自分たちがどのようなクリニックで,どのようなことができるか」を周りに認知してもらわなければ,紹介にはつながりません。私自身,開業当時から現在でも,自ら連携先に出向いて認知活動を行っています。今でこそ訪問すると歓迎してもらえますが,開業当初は「そこまでして患者が欲しいのか?」と言わんばかりの冷たい対応をされたものです。

    紹介された1人の患者を丁寧に診て,患者にも家族にも満足してもらい,そのことを紹介元にフィードバックできれば次の紹介につながることは言わずもがなですが,それだけでは経営が維持できるほどの紹介にはつながりません。「患者紹介」は,在宅医療専門クリニックの生命線です。「患者は黙っていても紹介されてくるものではない」ことをしっかりと意識して,院長自らが率先して認知活動を行ってほしいものです。

    当院の2022年度の紹介患者データを図1に示します。在宅患者の紹介患者総数は473人で,医療機関から37%,ケアマネジャーから26%,本人・家族から16%,施設から15%でした。ケアマネジャーや施設からの紹介は軽度・中等度患者,医療機関からは重度患者が多く,本人・家族からは軽度から重度患者まで程度は様々です。

     

    実際のところ,患者紹介のルートとアプローチ方法が確立すると,紹介される患者の数や,重症度のコントロールも可能になります。自院の現在のマンパワーや,どのような疾病・状態の在宅患者を紹介してほしいのかを見きわめた上で,紹介元にアプローチできるようになるからです。認知活動を戦略的・継続的に行っていけば,このような調整も可能になるのです。

    〈当院が行っている認知活動〉

    定期的に認知活動ミーティングを行っています。

    ① 戦略の策定

    月別の紹介患者数,紹介元の分析をもとに,短期(1カ月)・中期(2カ月〜半年)・長期(半年〜1年)の認知活動の戦略を練る。

    ② 営業活動の充実

    営業会議を月1回開催し,営業担当(事務職員が兼務)は連携先(居宅介護支援事業所,訪問看護ステーション,施設等)を定期的に訪問する。

    ③ 地域との連携

    地域の医療・介護従事者を対象とした勉強会を定期開催し,お互いに知識やスキルの向上を図るとともに,関係構築をめざす。

    ④ 住民への周知活動

    市民公開講座を定期開催し,一般市民への認知度アップと在宅医療の普及を図る。

    ⑤ 自院サイトの充実

    Webサイトは患者や家族がクリニックを選ぶ際の指標の1つになるため,自院の強みや雰囲気を伝えられるように最新の情報に更新しておく。

    ⑥ SNSを利用した情報発信

    患者への取り組みや勉強会,市民公開講座の開催告知や開催後の報告などをこまめに発信する。

    第2箇条
    営業活動(認知活動)は戦略的かつ計画的,継続的に行って,患者紹介につなげよう。

    WEBコンテンツ「たんぽぽ先生の現場で役立つ在宅報酬の考え方」

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