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【識者の眼】「出荷調整を『災い転じて福となす』ために」勝田友博

No.5235 (2024年08月24日発行) P.60

勝田友博 (聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)

登録日: 2024-08-09

最終更新日: 2024-08-08

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2024年7月3日より、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社「BD バクテックTM 血液培養ボトル」の出荷調整が開始され、多くの病院では血液培養ボトル不足への早急な対策が必要となっている。当学においても、成人と小児にわけて院内ルールを設定し、血液培養適応の再考、提出セット数の制限、培養陰性確認の一部省略などが行われている。私が研修医だった20年以上前、指導医から「検査を提出する前に、その必要性を十分検討するべきである」と指導を受けたが、血液培養に関してだけは(不勉強な私の誤解だったかもしれないが)、なぜか提出すればするほど褒められた記憶がある。

わが国は以前より、季節性インフルエンザをはじめとして、迅速抗原検査キットの使用率が高い国として知られている。さらに、コロナウイルス感染症2019(COVID-19)流行後は、多くの入院施設で呼吸器病原体パネルを代表としたマルチプレックスPCR検査体制が整い、近年は一部のクリニックではその簡易版の導入も進んでいる。このような検査体制が整うことは早期診断、抗菌薬の適正使用、感染管理など多くのメリットがあるが、一方で高感度な検査であるが故の長い陽性期間による陽性結果解釈の複雑化(以前の感染 or 直近の感染の判断が困難)、コンタミネーションの発生、医療コストの増加など、再考すべきデメリットも多い。

個人的には、今回の血液培養ボトル出荷調整騒動は、血液培養に限らず、あらゆる検査適応を十分検討するよい機会ではないかと考えている。限られたエビデンスではあるが、Diagnostic Stewardshipによる不必要な血液培養提出の制限効果に関する先行報告がある1)2)

当学小児科は、今回の血液培養ボトル出荷調整以前より、小児は嫌気性菌が関与する頻度が低いことを理由に、頸部膿瘍、腹腔内感染症などが疑われる場合を除き、嫌気ボトルの提出を省略してきた。さらに、今回の出荷調整を契機に、血液培養陽性率が低い軽症の小児肺炎などに対しては血液培養を省略する方針とした。加えて、マルチプレックスPCR検査を含むすべての検査適応を個別に検討する方針を再確認した。是非、災い転じて福となしたいと考えている。

【文献】

1)Fabre V, et al:Clin Infect Dis. 2020;71(5):1339-47.

2)Woods-Hill CZ, et al:JAMA Pediatr. 2022;176(7):690-8.

勝田友博(聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)[血液培養ボトル][検査適応]

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