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【識者の眼】「Onco-Xへの期待(前編)」清水千佳子

No.5236 (2024年08月31日発行) P.68

清水千佳子 (国立国際医療研究センター病院がん総合診療センター/乳腺・腫瘍内科診療科長)

登録日: 2024-08-20

最終更新日: 2024-08-20

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ここのところOnco-fertility、Onco-cardiology、Onco-nephrology、Onco-neurology、Onco-strokeなど、腫瘍学(Oncology)と他の専門領域との学際的な連携の場が増えてきている。8月3〜4日は猛暑まっただ中の姫路で、日本腫瘍循環器学会の学術集会があった。日本腫瘍循環器学会は、抗がん薬や放射線治療など、がん治療の影響による心血管疾患が増えていることを憂慮した循環器専門家たちが声をあげて設立された学会だ。がん治療医として理事会の末席を汚させて頂いているが、がんの合併症や治療の副作用に対して真摯に取り組んで下さっている循環器の先生方には頭が下がる思いである。

私が専門にしている乳がんをはじめ、多くのがん治療に使われるドキソルビシンは心毒性のある抗がん薬であり、用量依存性に心不全のリスクが増えることは、その薬を使ってがん治療を行う者であれば知らない者はいない。患者にしてみれば、「がん治療医はわかっていたくせに、なぜ今の今まで心臓の問題を放置してきたのか?」というところだろう。

弁明をさせて頂くと、がんはかつて不治の病であり、医師も患者もまずはがんを生き延びることが最優先だった。抗がん薬の開発研究では、心機能に問題のある患者は除外されてきたし、逆に心疾患の治療薬の開発においてがん患者は除外されてきた。心臓の問題が顕在化するのは、ほとんどの場合、がん治療を終え、がん治療医の手を離れてからのことであり、重篤であっても頻度の低い副作用や治療終了後のサバイバーシップ期に出現する晩期合併症のリスクを気にしていたら、がん治療ができなくなってしまうという感覚がある。

しかし、今日、がん治療は各段に進歩し、治療の選択肢が増え、予後が改善した。多くの患者ががんサバイバーとなるため、急性期の治療を終えたあとも長期的に健康を維持できるように配慮する必要がある。また、がん以外の疾患の予後も改善しており、併存症があってがんの診断を受ける患者も少なくない。かつてのように一律にがん治療の可能性を排除するのではなく、専門家との連携によって治療の選択肢を模索することが求められている。(後編に続く)

清水千佳子(国立国際医療研究センター病院がん総合診療センター/乳腺・腫瘍内科診療科長)[がん治療腫瘍学

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