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【識者の眼】「子どもとゼロカロリー飲料」坂本昌彦

No.5237 (2024年09月07日発行) P.61

坂本昌彦 (佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)

登録日: 2024-08-21

最終更新日: 2024-08-21

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先日、「『味がない』水が飲めない子どもが増えている」、というニュースが話題となりました。このニュースは世の中で多少の驚きを持って受け止められました。一方で子どもは、無味の飲み物より味のついた飲み物を好むことは日常でよく理解され、子どもの飲水行動が味の有無でどのように変わるのかを調査した研究もあります。1990年代に実施された研究は、摂氏35度、湿度40〜50%の部屋に子どもを90〜180分間入れ、子どもの飲水行動を調査したものです。通常の無味無臭の水を与えられた場合よりも、フレーバーを加えた水を与えられると、子どもが摂る水分量は増え、特にグレープフルーツ味が最も効果が高く、味のない水と比べて飲む量が44%増えたと報告しています。さらに、甘いスポーツ飲料を与えられた場合、飲む量は通常の水と比べて91%増えていました。特に熱中症で水分補給が大事なこの時期、子どもたちが進んで水分を摂ってくれると保護者も安心ですので、つい甘い飲み物を与えてしまうのは理由のないことではありません。

一方、フルーツ飲料や甘いお茶、糖分を含むソーダは肥満発症に大きく寄与していることもわかっています。これらの飲み物を摂取することは牛乳などの摂取量を減らし、主要栄養素(カルシウムなど)の摂取量が下がることも懸念されています。特に暑い時期に甘い飲み物で水分を補おうとすると、過剰な糖分摂取につながります。そこで欧州小児消化器学会は声明を出し、乳児や小児、青少年はソフトドリンクやそのほかの甘味飲料の摂取を控えるべきとしています。

では、ゼロカロリー飲料についてはどうでしょうか。砂糖の代わりにサッカリンやアステルパームといった人工甘味料が加えられているゼロカロリー飲料は、最近ダイエット志向もあり人気も高まっています。この分野は現在、様々な研究が行われています。まず、これらの飲み物の利点として、口腔内の微生物によって酸に代謝されないため、砂糖の入った飲み物と比べると虫歯リスクが下がることが指摘されています。一方で、これらの飲み物は潜在的に甘いものを好むという嗜好ができやすいことも指摘されています。成人の研究では、人工甘味料を摂取した人は、摂取後に塩辛いスナックよりも甘いスナックを好む傾向が高まることが報告されています。ほかにも満腹感が得られることで他の栄養素の摂取が不十分になるリスクなども指摘されています。成人では結局肥満のリスクや2型糖尿病、冠動脈疾患などの慢性疾患リスクの軽減にはつながらないとして、世界保健機関(WHO)のガイドラインでも、これらの人工甘味料の利用は推奨されていません。したがって、ゼロカロリー飲料なら問題ないという結論にはなりません。

このように無味無臭の水よりも味のついている飲み物のほうが好まれるのは、これまでの研究からも明らかですが、熱中症予防に限らず、代謝が盛んな子どもは多くの水分補給を必要とします。味のない水や麦茶などを適切に飲める習慣をつくることは、その子どもの将来の健康を守ることにつながると考えます。

坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[子どもの飲水行動][熱中症糖分摂取

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