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【識者の眼】「『究明』は『糾明』に通じる」小田原良治

小田原良治 (日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)

登録日: 2024-08-22

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『究明』と『糾明』、いずれも読みは【きゅうめい】である。文字をみると『究明』は「学問的に、あるいは科学的に明らかにする」との印象を持つのに対して、『糾明』は「悪事をあばき、糾弾する」という印象を持つ。本来は、この文字の通り、『究明』は学問的な意であり、『糾明』は悪事を暴く意味であろうが、実際は、『究明』のなかに『糾明』が含まれると解釈すべきであろう。原因究明、真相究明と言った場合、責任問題にたどり着くのである。【きゅうめい】という音が、『究明』を『糾明』に結びつけるのであろう。

厚生労働省の「医療事故調査制度に関するQ&A」(2015年9月27日更新)では「医療事故調査制度の目的は、医療法の『第3章 医療の安全の確保』に位置づけられているとおり、医療の安全を確保するために、医療事故の再発防止を行うことです」と述べ、さらに、〈参考〉として「今般の我が国の医療事故調査制度は、同ドラフトガイドライン上の『学習を目的としたシステム』にあたります。したがって、責任追及を目的とするものではなく、医療者が特定されないようにする方向であり、第三者機関の調査結果を警察や行政に届けるものではないことから、WHOドラフトガイドラインでいうところの非懲罰性、秘匿性、独立性といった考え方に整合的なものとなっています」と述べている。専ら医療安全の制度である医療事故調査制度の目的に「原因究明」という文字はないのである。

「原因究明」の文字は責任追及の制度であった第三次試案・大綱案や日本医療安全調査機構の旧モデル事業で使われていた。「原因究明」は、責任追及に結びつきやすいことから、筆者は終始、「原因究明」ではなく、「原因分析」であると指摘してきた。2022年大阪地裁判決1)は、「医療事故を調査」と表現している。人の行為に関する事案で、法律事項でもあり、死亡という結果が明白な事例で、「究明」の文字を使用すべきではない。「分析」か「調査」が適切であろう。

現在の医療事故調査制度の目的に、「原因究明」の文字はない。それにもかかわらず、今もって「死亡の原因を究明して……」と制度説明を行っている人々がいることは重大問題である。この誤った広報の結果が愛知県愛西市のワクチン接種事故の「報告書公表・記者会見」という暴挙につながったと言えるのではないだろうか。まさに、『究明』は『糾明』に通じてしまったというべきであろう。

【文献】

1)令和4年4月15日大阪地裁判決、令和2年(ワ)2302

小田原良治(日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)[医療事故調査制度][原因究明][責任追及]

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