子ども家庭福祉の行政機関の中で、児童相談所は様々な相談業務を行っている。児童相談所といえば「虐待対応」と感じている方も多いかもしれない。しかし、2021年度の児童相談所相談対応の統計では、「養護相談」の一部として虐待相談が行われており、全体の相談対応件数の36.5%を占めているにすぎない。そのほかにも、知的障害や発達障害に関わる「障害相談」、ぐ犯行為や触法行為に関わる「非行相談」、不登校や性格行動に関わる「育成相談」等、様々な子どもに関する相談業務がある。
この中でも児童相談所が担う大きな役割が、障害相談の中で知的障害を抱える子どもに対して交付される療育手帳〔交付者数124万9939人(2022年度末時点)〕の判定、交付業務である。相談対応件数としては、2021年度の統計で全体の35.6%を占めている。交付の基準については法的根拠がなく、国から知的障害に関する判定基準が示されていないため、各自治体において統一されていない。判定は知能指数(IQ)と適応行動尺度(SQ)の2つの結果を勘案して行うことが多い。2018年に行われた全国調査において、軽度知的障害のIQボーダーラインとしては、IQ75が52%、IQ70が27%で、自閉スペクトラム症等の発達障害の診断があり、SQが低い場合はIQ89まで軽度知的障害の手帳が交付されるなど、そのほかの基準を持つ機関が21%だった。ボーダーライン付近のIQにある子どもたちは、住む自治体によって療育手帳が交付されたり、されなかったり、その将来にも関わる大きな不公平が存在していることが明らかになっている。
2024年9月12日に公開された「令和6年度全国児童福祉主管課長・児童相談所長会議資料」の中で、厚生労働省は「療育手帳に係る判定基準統一化の検討進捗報告」として、今まで判定に用いてきた知能検査(主として田中ビネー知能検査Ⅴ)や適応行動尺度(S-M社会生活能力検査等)に代わる新たなアセスメントツール(Adaptive Behavior and Intelligence Test–Clinical Version:ABIT-CV)の開発の状況を報告している。既に検査の妥当性の検証、標準化は進んでおり、2024年度中に実装試験等が行われ、判定基準の全国統一化に向けた具体的な影響や課題についての検討・議論がなされるようである。
境界域で知的な課題を抱え、社会生活の中で困難を抱える子どもたちは、療育手帳の有無で高校への進学や就労の選択肢、利用できる福祉サービス等が大きく変わってくる。住む自治体によって格差が生まれないような仕組みづくりを進めてほしい。
小橋孝介(鴨川市立国保病院病院長)[療育手帳][児童相談所][子ども家庭福祉]