エムポックスは,オルソポックスウイルス属のエムポックスウイルス(mpox virus)による急性発疹性疾患であり,日本では感染症法の4類感染症に位置づけられています。ウイルスは死亡率が約10%と高いcladeⅠ(コンゴ盆地clade)と,約1%と低いcladeⅡ(西アフリカclade)の2系統に大きくわかれます(詳細はNo.5205,第19回参照)。
2022年5月以降,エムポックスが世界的に流行し,2022年7月,WHOは国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(public health emergency of international concern:PHEIC)を宣言しました。この流行は,clade Ⅱbが主体で,男性間の性交渉を行う者(men who have sex with men:MSM)における性交渉時の皮膚・粘膜接触による感染事例が数多く報告されました。以降,感染者は減少し,2023年5月に緊急事態に該当しないとされました。
しかし,コンゴ民主共和国で,これまで報告されていたcladeⅠとは異なるclade Ⅰbによるエムポックスの流行が継続し(これまでのcladeⅠはclade Ⅰaと呼ばれることになりました),コンゴ民主共和国周辺のウガンダ,ルワンダ,ブルンジ,ケニアといった国でも感染事例を認めました。さらに,スウェーデンやタイなどのアフリカ以外の国においても,コンゴ民主共和国からの輸入例と考えられるclade Ⅰbが報告されました。コンゴ民主共和国国内では,男女間および同性間での性的接触,家庭内感染により感染が拡大していると報告されています。
このように,cladeⅡよりも重症化するリスクが高いとされているclade Ⅰbの複数国への感染拡大を受けて,WHOは2024年8月14日に再びPHEICを宣言しました。
全世界では,2022年1月1日から2024年7月31日までに,121カ国と地域から確定10万3048例,疑い186例,死亡229例がWHOに報告されています。一方,日本では,2024年9月10日時点で248例(2022年8例,2023年225例,2024年15例)のエムポックス患者が報告されていますが,clade Ⅰbの事例は報告されていません。
現在,clade Ⅱbと比較したclade Ⅰbの感染性,重症化,治療薬やワクチンの有効性などの違いに関して明らかでないことが多く,世界的に評価がなされています。clade Ⅰb事例であっても,基本的なところはclade Ⅱbと似通っているため,今一度,「エムポックス 診療の手引き」などを確認し,clade Ⅰbの事例に対する警戒を行っていくことが大切です。
【文献】
1)国立国際医療研究センター:エムポックス 診療の手引き 第2.0版. (2024年9月10日アクセス)
2)国立感染症研究所:アフリカ大陸におけるクレードⅠによるエムポックスの流行について(第2報). (2024年9月10日アクセス)
3)WHO:WHO Director-General declares mpox outbreak a public health emergency of international concern. (2024年9月10日アクセス)
4)厚生労働省:エムポックスについて. (2024年9月10日アクセス)