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【識者の眼】「子ども自身が心肺蘇生法を学ぶ意義」坂本昌彦

坂本昌彦 (佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)

登録日: 2024-09-30

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今回は心肺蘇生法(CPR)を子ども自身が学ぶ重要性について考えてみたいと思います。心停止はいつ誰にでも起こりうる緊急事態で、特に院外で発生する突然の心停止は生存率が非常に低く、日本では年間約2.5万人が心停止を経験しています。しかし、CPRを即座に行うことで生存率は2〜4倍に向上し、脳を保護しながら医療機関到着までの時間を稼ぐことが可能です。

多くの研究により、小学生のうちからCPRを学ぶことの有益性が確認されています。早期にCPRを習得することで緊急時の対応能力が高まり、子どもたちは自身の家族や地域社会にもその知識を広める役割を果たします。韓国などでは小学生向けのCPR教育が行われ、その効果として子どもたちの知識や自信が向上したと報告されています。日本でも、京都市の「京あんしんこども館」などで小学生を対象にCPR講習会が行われ、多くの子どもたちが参加しています。長野県佐久市の佐久総合病院では、今年の病院祭で、地域の子どもたちを対象にCPRトレーニングを行いました。180名の子どもたちが参加し、調査したところ、その多くで胸骨圧迫の知識や自信が向上していました。

一方で小学生へのCPR教育には課題もあります。効果的な胸骨圧迫には約45キロの体重が必要とされ、小学生には十分な深さでの圧迫が難しい場合があります。日本で行われた教師へのアンケート調査では、ほとんどの教師がCPRトレーニングを始める適切な年齢を、小学校高学年〜中学生と考えていました。しかし、命の大切さを学ぶ意味では早い段階からの教育が推奨されており、年齢が低くてもCPRトレーニングを通じて基本的な知識や技術を身につけることは有意義です。欧州蘇生評議会も学童へのCPR教育を推奨しています。

ここまでCPR教育について述べましたが、AED(自動体外式除細動器)も心停止時に重要な役割を果たします。AEDの使用により生存率は大幅に向上しますが、自信を持って積極的に使える人はまだまだ多くありません。そこでAEDをもっと身近に感じさせる教育が必要です。最近では、小学館の子ども雑誌「幼稚園」がAEDの工作キットを付録にするなど、親子で学べる取り組みも行われています。

子どもたちが学びを深めることは、その周りの保護者や子どもに関わる大人にもスキルが広まるきっかけとなります。それは地域全体の安全性向上に貢献することにつながります。今後も学校や地域のイベントを通じて、こうした取り組みを積極的に進めることが求められます。

【参考文献】

Tse E, et al:Children(Basel). 2023;10(3):431.

Ko JS, et al:Healthcare(Basel). 2023;11(14):2047.

Sakamoto M, et al:Cureus. 2024;16(9):e68412.

Tanaka H, et al:Nihon Rinsho. 2011;69(4):658-69.

坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[心肺蘇生法][AED][心停止]

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