2019年以来、久しぶりに英国の家庭医療学会に参加してきた。今回も前回と同じくリバプールで開催され、天候もよく、英国全土から多くのGP(家庭医)が参集していた。まず感じたのは非白人の参加者の割合が増えていることで、特にアフリカや東南アジア出身の方が目立っていた。話をすると、英国のEU離脱に伴い、従来東欧などから流入していた外国人医師が引き上げ、代わりに英国連邦諸国、つまり旧植民地から若手医師が多く入国しているとのことだった。
また、大会の中で印象的だった事実は、高齢化などで患者が増えるもののGPが増えず、一人ひとりのGPの診療負担が増加していることで、5年以内に現場から去りたいというGPが4割近くいるという調査結果に驚いた。この10年間の保守党政権でプライマリ・ケアの予算が負担に見合った増加をしていないこと、また先に述べたようにEUからの離脱で外国人医師が去ってしまったことが影響している。英国連邦諸国から若手医師をまねいているものの、社会の右傾化で外国人排斥を唱える暴動がつい1カ月前に起きたようで、なかなか安心して彼らが働ける環境にないとのことだった。
そうした中、GPが厳しい労働環境でも心理的・肉体的な健康を保って働けるよう応援する企画が多く、「Ikigai(生きがい)」という日本由来の言葉が頻繁に使われていた。それだけストレスが大きいのだろう。労働党新政権でNHS(国民保健サービス)を担う政治家が学会長とディスカッションするセッションでは、GPの貢献に感謝しつつ支援策を強化することを約束して会場は沸いていた。政治への期待の大きさも感じたが、ただのリップサービスにならなければよいなと願うばかりだ。
日本でも、高齢化に伴う患者増がみられる地域があるものの、医療機関に勤める医師の高齢化も進んでおり、その負担の増加とキャパシティの低下は医療提供体制を不安定なものにしかねない。総合診療と専門診療のバランスがとれた医師養成プロセスと働き方改革での環境整備を進めていくことは、待ったなしの急務だろう。英国を他山の石としたい。
また、基調講演ではマイノリティの立場のGPが数名登壇して、自らの経験を語り、共生を呼びかけていた内容が胸に響いた。ADHD、アルコール依存、アフリカ出身で女性器切除の被害者、LGBTQ当事者、難民など、マイノリティであるがゆえに見えてくる社会の歪み、そして彼らを支援しようとするコミュニティの取り組みには見習うことが多い。日本でも、我々家庭医は人々の相違の中に共通の価値や理想を見出しながら包摂していく姿勢が診療でも働く場でも欠かせないと痛感する。
他国の取り組みをそのまままねることはできないが、歴史・文化・制度の相違をしっかり理解しながら多くを吸収することは大切だと実感できる訪問となった。
草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]