注意欠如・多動症(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)は神経発達症のひとつで,著しい不注意や多動・衝動性を主症状とする。小児期の有病率は,世界全体では7.2%とされるが,国によっても大きな差がある。
不注意や多動・衝動性が,本人の精神発達年齢を考慮しても過大であることを確認する。また,複数の環境下で症状が出現することも前提条件として確認する必要がある。
まずは,ADHDと紛らわしい状態を呈することがある睡眠不足や長時間のスクリーンタイムなどの生活習慣や,睡眠時無呼吸症候群,むずむず脚症候群,甲状腺機能亢進症といった身体疾患の評価と介入を行う。
また,不要な刺激が少なくなるような環境調整を行うとともに,家族や教師,職場の上司など周囲の人間が,疾患を正しく理解し適切な配慮が行えるよう,心理教育を可能な限り行う。
知能検査は本人の知的発達の程度を把握するため,また本人の(ADHDの中核的な症状以外も含めた)特性の理解のためにきわめて有用で,事実上,必須の検査となる場合がほとんどであるが,知能検査により診断を行うわけではないので注意が必要である。
おおむね6歳以上ではADHD治療薬を検討することになるが,原則としては上記の介入を行ってもなお症状が残存する場合に使用する。ADHD治療薬には大きくわけて,中枢神経刺激薬と非刺激薬がある。
わが国では,コンサータⓇ(メチルフェニデート塩酸塩),ビバンセⓇ(リスデキサンフェタミンメシル酸塩)といった中枢神経刺激薬に対しては「ADHD適正流通管理システム」での厳格な管理が行われており,様々な条件を満たしてシステムへの登録が認められた医師(登録医師)に限って処方が可能となる。一方で,ストラテラⓇ(アトモキセチン塩酸塩)やインチュニブⓇ(グアンファシン塩酸塩)といった非刺激薬は,医師であれば処方可能である。
残り1,033文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する