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「ホスピタリスト(病院総合医)医学プログラム」創設の狙いとは〜徳田安春(群星沖縄臨床研修センター センター長/JAMEP理事)【この人に聞きたい】

No.5249 (2024年11月30日発行) P.6

徳田安春 (群星沖縄臨床研修センター センター長/JAMEP理事)

登録日: 2024-11-27

最終更新日: 2024-11-27

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入院医療の質と安全性の向上を目指し
ジェネラルな病棟管理のスキルを身につけた
ホスピタリストの育成を目指す

とくだ やすはる:1988年琉球大卒。沖縄県立中部病院にて研修、同病院総合内科、聖路加国際病院一般内科を経て筑波大水戸地域医療教育センター総合診療科教授。地域医療機能推進機構本部顧問などを経て,2017年より現職。

─「ホスピタリスト医学プログラム」を立ち上げる理由を教えてください。

病棟管理というカテゴリーの医学を日本で普及させたいと考え、プログラムを創設することにしました。日本では、初期臨床研修を終えると専門研修に入り、各診療科に分化してスペシャリストを目指すキャリアパスを歩むのが一般的です。病院では、各分野のスペシャリストの医師が病棟管理を行うことになりますが、高齢化に伴い入院患者の多くが複数の疾患を持つようになっています。例えば骨折で入院した患者であっても心臓や肺、神経系などのさまざまな薬を飲んでいるケースが多く、スペシャリストの医師は総合的な診療能力が不足しがちなことから、手術や入院中にどうしても医療事故やインシデントが起こりやすい状況が生まれてしまいます。

海外の先進諸国では、入院患者を専門分野の医師と総合内科系のホスピタリストと呼ばれる病院総合医が一緒に診ていくのが主流で、米国では病院総合医が最も多い診療科となっています。病院に勤務する各分野のスペシャリストの医師たちにジェネラルな病院診療(hospital medicine)を集中的に勉強してもらうことで、入院医療をより安全で質の高いものにしていくことができると考えています。

SNSで病院診療に特化した1日1問の症例・知識問題に解答

─プログラムの内容はどのようなものですか。

日本には病院勤務医が約20万人、開業医が10万人いて、病院勤務医の20万人は何らかの形で入院医療に関わっています。入院のオーダーを出し、検査や手術など医療を提供する中で、すべての領域を知る必要はありませんが、病院診療に特化した入院患者に起こりやすい事象に適切に対応できる知識と能力が求められています。

そこで効果的にアウトリーチできる手段として考えたのがSNSを活用した学習プログラムです。勤務医は日々の臨床で忙しく、勉強に割く時間をなかなか確保することができません。このプログラムは、毎日1問SNSでスマートフォンに選択式の問題が届き、解答するとその場で解説を見ることができます。スキマ時間に症例や知識問題を解き、それを200日、300日と重ねていくと無理なく病棟管理のスキルが取得できるプログラムになっています。初期研修を修了すれば受講できる「ベーシックレベル」と専攻医以上が対象の「アドバンスドレベル」という2つのレベルを想定しています。2025年3月からスタートする予定です。

また医師の高齢化という社会問題の解決にもつながる効果が期待できます。高齢になると外科医は手術ができなくなります。肉体的なスキルが衰えても、リスキリングにより患者とのコミュニケーション能力や認知的なスキルを磨くことは可能で、ベテランの医師にはホスピタリストとして病棟を任せられる重要な役割を果たしてほしいと考えています。

初期臨床研修のアウトカムを客観的な指標で評価する「基本的臨床能力評価試験」

─JAMEP(日本医療教育プログラム推進機構)が実施している「基本的臨床能力評価試験」と狙いは同じということですね。

ともに日本の医療システムの課題を解決することを目指しています。JAMEPは日本の医療教育の質をチェックする第三者機関として、医療の質の向上を実現するための研修教育の支援を通じて、日本の医療の増進に寄与することを目的に設立された、特定非営利活動法人(NPO)です。私の所属する群星沖縄臨床研修センターの前センター長の宮城征四郎先生(名誉センター長)が設立時から理事を務められていた関係で、その後を継ぎ私が理事に就任しました。

私は1988年に医学部を卒業後、沖縄県立中部病院において、救急や総合的な診療能力を身につけるためのアメリカ型のスーパーローテーション方式で研修を受けましたが、当時は大学に入局し、スペシャリストとしてのトレーニングを始めるストレート方式が一般的でした。卒後1、2年目の何もできない状態の若手医師が夜間や休日にバイト勤務を行っていたことで、2000年代に入ると色々な医療事故が大きく報道され、社会問題化しました。そうした状況を受け、医療の質と安全性の向上のために2004年4月からスーパーローテーション方式の初期臨床研修が義務化されましたが、研修プログラムの運営や実施体制は各医療機関の裁量に委ねられている部分が大きく、研修のアウトカムも客観化されないまま、研修医のスキルにも大きな差が生まれているという課題がありました。こうした問題意識から、基本的臨床能力評価試験を立ち上げたのです。

─教育プログラムではなく試験という形をとったのはなぜでしょうか。

教育の目標を達成するためには評価が必要です。学習の成果をしっかりと評価し、それに基づいて教育方法を考えていき、その教育で目標を達成するという好循環を作ることが重要なのです。初期臨床研修制度で行われていたのは、自身と指導医からの評価です。評価で大切なのは客観性です。試験は、①医療面接、②身体手技観察、③症候学臨床推論、④疾患各論-という4大カテゴリーに基づき実施されています。受験における偏差値のような指標を導入することで、研修医にとっては現時点の臨床能力を客観的に把握することができ、今後力を入れるべき分野・領域が明確になるので、総合的な臨床能力を身につけることにつながります。一方、研修医を受け入れる医療機関にとっては、自院の全国での順位が分かり、4つのカテゴリーについて細かくフィードバックが行われるため、研修プログラムの改善点が浮き彫りになります。こうした取り組みが評価され、現在では約半数の研修医が受験する試験になっています。

ホスピタリストの認定試験を来年度内に実施

─今後の展望を教えてください。

ホスピタリスト医学プログラムの認定試験を来年度内に実施することを目指しています。認定制度にすることで、患者さんが入院する医療機関を選ぶ際の1つの基準となるように、あらゆるステークホルダーに働きかけて制度の普及を図り、日本の入院医療の質と安全性の向上に貢献していきたいと考えています。

(聞き手・土屋 寛)

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