小児科医をしていると保護者からいろいろな相談を受ける。これがなかなか勉強になる。最近は「危ないことを言い聞かせて、子どもが理解できるようになるのは何歳くらいから?」と聞かれた。そこで今回は、子どもの発達段階をふまえてこの質問に答えてみたいと思う。
1歳前後になると赤ちゃんは歩きはじめるようになり、行動範囲がぐっと広くなる。言葉の理解が少しずつ進みはじめるのがこの時期である。ただ、まだ言い聞かせても危険の理解は難しい。行動が広がる一方、歩行姿勢は不安定なこの時期には転倒による事故が起こりやすく、転倒事故は1歳前後がピークになる。家の中の事故も増えるため保護者も気が休まらない時期でもある。
2〜3歳頃になると運動能力と認知能力が向上し、危険回避能力が発達しはじめる。この時期の子どもは物事の因果関係を理解しはじめ、いくつかの危険を認識できるようになる。3歳を過ぎると単純なリスク、たとえば「高所からの転落リスク」や「熱いものでやけど」といったリスクへの認識が始まる。
ただ、子どもの好奇心がさらに強くなる時期で、遊んだり探索したりした行動がもたらす危険を十分理解するにはまだ不十分である。こうした危険回避能力は、保護者の指導、環境要因、個人の気質に大きく影響されるため、まだまだ不安定である1)。この時期は身体能力も急速に成長するため、親も気づかないうちにいろいろなことができるようになっており、想定外の事故リスクを高めることにつながる。
4〜6歳頃になると相手の心を理解する能力が発達し、相手の立場に立って考えられるようになる。また言語能力が発達し、大まかな時間の理解が進み、記憶をたどって話せるようになる2)。このように言葉を使って考えや行動を調整することができるようになることで、自己をコントロールする自制心が高まっていく。この時期になってようやく、子どもは一般的に安全に関する意識と意思決定の能力が向上し、より複雑な危険を理解することができるようになる。複雑な危険とは、たとえば交通事故のリスクや見知らぬ人との接触によるリスク等である。
したがって、今回の本題である「保護者に言われて注意を理解し、安全な行動に移りはじめる年齢」に対しては、個人差もあるが、おおむね4〜5歳以降と答えるのが妥当と考えられる。一方で、この時期には滑り台やジャングルジムなどの遊具からの転落や、ペダルなし二輪遊具やキックボードなどの転倒が大幅に増える。遊具の事故は5〜6歳がピークで6歳以下が7割を占めている。このように安全な行動を獲得できるにはまだ不安定な時期であり、保護者の監督と支援は引き続き欠かせない1)。
子どもの発達は個人差も大きく、事故は起きやすい時期を過ぎたからといって起こらないわけでもないが、ある程度の目安を伝えることは保護者の安心につながると考えている。
【文献】
1) Kendrick D, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2013;2013(3):CD006020.
2) 笹田 哲:発達段階×領域別で理解度Up! イラストと動画で学ぼう! 人間発達学. 診断と治療社, 2023.
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[危険回避能力][事故のリスク][発達]